臨床家のための矯正 YEARBOOK 2017
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020臨床家のための矯正YEARBOOK 2017はじめに 成長期の開咬症例は,舌癖をともなうことが多く,その場合に矯正治療において機能的アプローチが必要であると言われている1,2.開咬状態が長期間経過すると歯性から骨格性に移行することも多い3.そのため,早期治療が有効であり,そうすることで術後の安定性も高くなる.習癖に起因した不正咬合を治療するには,患者の協力が必要であり治療に対するモチベーションが治療成功の大きな鍵を握っている4~7.また,開咬の治療には多くの場合,ある時期に上下顎間ゴムの使用が必要であり,治療結果も患者の協力によるところが多い8. アレキサンダーディシプリンには20の原則があり,その第1はEort=Result(努力=結果),最後の原則としてCreate Compliance(患者の協力を得ること)を挙げている9~12.治療を成功させ,その長期安定のためにはテクニカルスキルだけでなくノンテクニカルスキルも必要であり,それらを原則のなかに含んでいるのが特徴である8. 今回,術後16年経過しても安定している舌癖に起因する側方歯列の開咬症例について述べる.側方歯列開咬症例初診時年齢:9歳2か月主訴:歯ならびが悪い(右側が開いている)現病歴: アレルギー性鼻炎,口呼吸,鼻中隔湾曲,アデノイド家族歴: 兄(前歯部交叉咬合,叢生を非抜歯で矯正治療),両親は特記事項なし顔貌所見: 側貌は顎の後退感がみられる(図1a),正貌は左右形態非対称で左側が小さい(図1b, 8b)エックス線写真所見:側面は後頭部発達(長頭形),下顎下縁平面にズレ(図8a),正面(左右の対称性など)は鼻中隔湾曲,下顎骨の非対称口腔内所見: 大臼歯関係:右側(Ⅰ級),左側(ややⅡ級)(図1d, f)模型分析: Overjet+3mm,Overbite+4mm, A.L.D.上顎-8mm,下顎-4mmその他の所見:上顎中切歯の翼状捻転,右側側方歯列が,側切歯から第二乳臼歯にかけて最大7mmの開咬,咬合平面は右側が下がっている.上顎は乳犬歯,第一・第二乳臼歯が左右とも残存,下顎は第一・第二乳臼歯が左右とも残存,上下顎前歯の歯肉,および上唇小帯の肥厚が見られる.嚥下時に右側側方歯群に舌の突出がみられる(図1d~i).診断:① ややClassⅡ傾向(下顎の劣成長)がみられるAngle ClassⅠ ②舌癖が原因と思われる右側側方歯列開咬③上下前歯部叢生治療計画:①舌突出癖除去のため,MFT指導[アレキサンダー研究会]舌癖に起因した成長期の側方歯列開咬症例アレキサンダーディシプリンの原則に基づくLateral Open-bite case of the Growth Phase Due to Tongue Habit‐Base on the Principle of the Alexander DisciplineHidehiko Sato福岡県開業 サトウ・ヤスナガ矯正歯科連絡先:〒810‐0004 福岡県福岡市中央区渡辺通5‐14‐10 サトウビル3F佐藤英彦特集 成長期の開咬を考える 第Ⅰ部 スタディグループによる症例提示

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