臨床家のための矯正 YEARBOOK 2017
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図1 混合歯列期における開咬の1例.012臨床家のための矯正YEARBOOK 2017はじめに 開咬は,咬頭嵌合位における上下顎歯の垂直的被蓋関係の異常で,数歯にわたり咬合接触が得られない状態と定義することができる(図1).この不正咬合は,Angle ClassⅠ,ClassⅡ,ClassⅢのいずれの顎態においても生じ,発症部位により前歯部開咬(anterior open bite),または,臼歯部開咬(posterior open bite)に分類される. 本稿では成長期の開咬に焦点を当て,なかでも比較的発症頻度の高い前歯部開咬を中心に概説したい.なお,ここでは便宜上「開咬」という用語は前歯部開咬に限局して用いることとする.開咬の発症機序と顎態の特徴(図2, 3) 開咬の原因はさまざまで,吸指癖,舌習癖,口呼吸などの口腔習癖1,各個体特有の顎発育パタン2,口唇,舌,咀嚼筋を含めた軟組織の異常3などが直接的または間接的に関与するといわれている.また,開咬の発症には歯系,骨格系,軟組織系,機能系の要素がかかわり,それらが複合し相互に関連し合いながら個々の不正咬合の多様性を生み出している. 乳歯から永久歯への交換期にある小児のほぼ全員に,一時的に“見かけ上の開咬”が生じるが,そのほとんどは大きな障害をともなうことなく約1~2年で自然消退していく.一方,何らかの原因によって永久切歯萌出完了期を過ぎても開咬が存在したり,一旦正常な前歯部被蓋が形成された後に開咬が発症したりする場合があり,このような“真性の開咬”では,咀嚼や発音のみならず審美性にも大きな影響を及ぼす可能性がある. 欧米人を対象とした横断研究では,開咬は混合歯列期において17.7%,また吸指癖をともなう集団においては36.3%に発症すると報告されている4.一方,スウェーデン人を対象とした縦断コホート研究では,3歳児は54.9%,7歳児は9.6%,11歳児は0.4%と成長にともない発症頻度が低下していく傾向がみられるとの報告もある5.過去にわれわれが山梨県甲州市の中学生を対象に実施した疫学調査では,矯正歯科治療を必要とする開咬(Overbite<-4.0mm)の発症頻[総論]成長期の開咬その原因と治療法Open bite in Growing Children - Its Etiology and TreatmentKeiji Moriyama東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面頸部機能再建学講座顎顔面矯正学分野連絡先:〒113‐8510 東京都文京区湯島1‐5‐45森山啓司特集 成長期の開咬を考える 

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