咬合挙上をうまくなりたい
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49いに削合することで咬合高径を一定に保っていると考えられる.モルモットの前歯部に咬合挙上板を装着すると,臼歯部は上下の歯が咬合するまで伸び続け,モルモット自身の臼歯で異常に高い位置での咬合関係をつくることができる.このモデル動物の咬合挙上板を撤去すると,数日のうちに生来もっている咬合高径に戻ることがわかり,咬合高径は個々の動物に適した高さに維持されていることが明らかとなった(図4の●部分).「咬合高径が高い」と知るための感覚は,閉口筋の筋感覚と歯根膜感覚であると生理学的に考えるのは難しくない.閉口筋筋感覚は「筋紡錘」がその受容器であり,筋紡錘には「錘内筋」が存在し,錘内筋が収縮(短縮)することで,筋伸張に対する反応性を調節することができる.筋収縮時には,「錘外筋」を収縮させる「α運動ニューロン」と,錘内筋を収縮させる「γ運動ニューロン」が協調して,筋紡錘の感度を調節し,等張性収縮を行っている.咀嚼するときについて考えると,ある咬合高径で等尺性収縮に移行するときに,錘外筋の長さが変化しない等尺性収縮に変わっても,γ運動ニューロンが錘内筋を収縮させることで,筋紡錘の受容器部分が伸張され,あたかも筋全体が伸張したような情報が脳に伝えられる.このことは,等尺性収縮に移行する高さである咬合高径が変化すると筋感覚による筋収縮の調節も変化すると考えられる.咬合高径の変化で筋感覚に変化を及ぼすと考えられる.そこで,これらの感覚を喪失(あるいは障害)させるために,三叉神経中脳路核を破壊した実験がある.三叉神経中脳路核は,閉口筋筋感覚および歯根膜感覚の一部の情報を伝える一次求心性感覚神経の細胞体が存在する核である.実験的に咬合高径を高められた動物の三叉神経中脳路核を破壊すると,異常に高められた咬合高径を生来の高さにまでは戻せなくなることがわかった(図4の△部分).つまり,咬合高径が変化すると,筋感覚や歯根膜感覚に変化が起こり,その感覚変化から生来の感覚を取り戻す位置まで咬合高径を調節している可能性が考えられる6.図3 生理学の教科書に載っている「筋の長さ−張力曲線」.*参考文献4より引用040801206080100baa:受動張力 (筋が伸張されることにより発生する張力)b:活動張力(筋収縮により発生する張力)c:全張力c筋の長さ120140(%)(%)張 力図4 モルモットの咬合挙上板を撤去すると,数日のうちに生来もっている咬合高径に戻ることがわかり,咬合高径は個々の動物に適した高さに維持されていることが明らかとなった100105110115(%)019191919191919121212121212++++++**++**++**++**++**++*+*+*+121211111111111010977419171710101581211510152025303540経過日数咬合挙上+中脳路核破壊群咬合高径処置なし群咬合挙上のみ群参考文献1.Mann A, Miralles R, Santander H, Valdivia J. Inuence of the vertical dimension in the treatment of myofacial pain-dysfunction syndrome. J Proth Dent 1983; 50(5) : 700-709.2.Lindauwer SJ, Gay T, Rendell J. Electromyographic-force characteris-tics in the assessment of oral function. J Dent Res 1991; 70(11) : 1417-1421.3.Lindauwer SJ, Gay T, Rendell J. Eect of jaw opening on masticatory muscle EMG-force characteristics. J Dent Res 1993; 72(1) : 51-55.4.小幡邦彦, 外山敬介, 高田明和, 熊田衛.新生理学.東京:文光堂, 1994.5.Yagi T, Morimoto T, Hidaka O, Iwata K, Masuda Y, Kobayashi M, Takada K. Adjustment of the occlusal vertical dimension in the bite-raised guinea pig. J Dent Res 2003; 82(2) : 127-130.6.Zhang W, Kobayashi MMoritani MMasuda Y, Dong J, Yagi T, Maeda T, Morimoto T. An involvement of trigeminal mesencephalic neurons in regulation of occlusal vertical dimension in the guinea pig. J Dent Res 2003; 82(7) : 565-569.7.Kanayama H, Masuda Y, Adachi T, Arai Y, Kato T, Morimoto T. Tem-poral alteration of chewing jaw movements after a reversible bite-rais-ing in guinea pigs. Arch Oral Biol 2010; 55(1) : 89-94.PART 2 咬合高径の挙上のフローと臨床

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