咬合挙上をうまくなりたい
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48咀嚼筋の長さと咬合高径咀嚼筋が咀嚼時に力を発揮する際には,上下の歯に挟まれた状態の食品に対して,等尺性収縮によって,粉砕・臼磨を行っている.骨格筋の等尺性収縮の出力にとって生理学的に重要なこととして,収縮時の筋の長さが挙げられる.咬合時には上下の歯(または補綴物)が力を発揮するために等尺性収縮を起こすが,このとき筋の長さを決定することになるのが噛み合わせの位置,つまり咬合高径である.咬合高径と咀嚼筋の発生する張力との関係は調べられている.Mannら1は一定の筋活動により発揮される力をさまざまな顎間距離で測定した.8名の被験者のうち,2名は前歯部での顎間距離が15 mmのとき,6名は20 mmのとき最大となることを明らかにした(図1).また,Lindauwerら2, 3は,一定の力を発揮するときの筋活動を測定し,臼歯部での顎間距離が8 mmと10 mmでは,筋電図活動と咬合力の関係を示すグラフの傾きに変化があることを示した(図2).つまり,1N(ニュートン)の力を発揮するための筋活動量が,顎間距離によって変化することを示した.筋の長さとはどういうことかを考えるために,生理学の教科書4に載っている「筋の長さ−張力曲線」を見てみよう(図3).固定した筋の長さが一定の長さ以上になると,収縮前にも張力(静止張力)が発生するので,全張力から静止張力を減じたものが収縮により生じた張力(活動張力)となる.つまり,筋が1回の収縮で発生する張力は長さにより変化し,最大の活動張力を発揮する長さが存在することになる.咬筋や側頭筋も他の骨格筋と同様に張力を発揮する際の筋の長さが重要であることが明らかであり,咬合高径が最大活動張力を発揮する長さを決める要因である.筋感覚と咬合高径咬合高径が変化すると,このような感覚入力が変化している可能性が考えられる.ここで,咬合高径を実験的に増大したモルモットの研究があるので紹介する5〜7.モルモットの歯は絶えず伸び続けるので,上下の歯で互図1 8名の被験者のうち,2名は前歯部での顎間距離が15 mmのとき,6名は20 mmのとき咬合力が最大となる(V.B.などは被験者のイニシャル).*参考文献1より引用1009040%筋電図積分値20%筋電図積分値80706050302010710152025顎間距離(mm)顎間距離が15mmで2名の被験者(V.B.-A.A.)顎間距離が20mmで6名の被験者(E.D.-C.P.-R.M.-G.S.-J.B.-A.M.)3035404540咬合力図2 1N(ニュートン)の力を発揮するための筋活動量が,顎間距離によって変化する.*参考文献2,3より引用00.20.40.60.811.21.41.61.82(μV. N-1)78910臼歯部の顎間距離(mm)1112筋活動量CHAPTER 4 咬合高径の挙上──検査と治療のフロー咀嚼筋の感覚・長さと咬合高径physiology 4

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