女性患者さんを診る
4/6

成熟期つわりの症状はひどく,食後に嘔吐を繰り返し,出産まで何度も点滴治療を受けた既往があります.口腔内所見は歯肉の発赤・腫脹は顕著ではありませんが(平均ポケット長2.2mm,BOP31%),全顎的にう蝕歯が多く,とくに上下顎舌口蓋側のエナメル質は滑らかに摩耗し,歯頸部にう蝕が多発していました.図3-14は初診時の口腔内の状態です. 診断 つわりによる嘔吐は妊娠初期の短期間で解消することが多く,酸蝕症まで引き起こすことはほとんどないといわれています.しかしこの患者の場合には,3回の妊娠期間中に妊娠悪阻による嘔吐を繰り返した結果,酸蝕症が引き起こされたと考えられます. 図3-15のパノラマエックス線写真からは,多数図3-16 つわり時のブラッシングのコツ(参考文献20より引用改変).●体調の良い時間帯に磨く.まずは無理をしない つわりは起床時や食後,疲れのたまった夜などに辛くなることが多いです.食後や就寝前の歯磨きは理想的で効果的ですが,まずは無理をせずに,吐き気が辛いときは避けて,体調の良いときをみつけて歯磨きをしてみましょう.●顔を下に向けて磨く 歯磨き中にノドに唾液が溜まると,吐き気が催されることがあります.下を向いて歯磨きをして,唾液がノドに流れないようにしてみてください.●“ながら磨き”のすすめ テレビをみながら,お風呂でリラックスしながらなど,つわりが軽い体調の良いときを利用して,“ながら磨き”をしてみましょう.● 臭いの強い歯磨剤を大量に使わない 歯磨剤の香料が強いものは,臭いだけでも気持ちが悪くなることがあります.臭いや刺激の少ない歯磨剤に代えるか,無理に歯磨剤を使用しなくても良いのです.●歯ブラシは小さめのものを使用する 大きな歯ブラシは奥歯を磨くときに気持ちが悪くなりやすいので,なるべく小さめの歯ブラシを使用してみましょう.●“ぶくぶくうがい”を十分に行う 食後で吐き気がある場合は,無理に歯磨きがでなくても水や洗口剤で“ぶくぶくうがい”をして,口腔内を清潔にしましょう.また,嘔吐した直後はうがいを十分にして,胃液などの残留を洗い流してください.嘔吐直後の歯磨きは歯の摩耗を引き起こし,酸蝕症となる危険があるため,約30分は歯磨きを控えるのが望ましいです.●奥から前にかきだすように磨く ノドに近い部分に歯ブラシが不意にいくと,とくに吐き気を催しやすいです.まずは慎重に,なるべく奥歯に歯ブラシを当ててから,前方にかきだすように磨いてみましょう.●砂糖不使用のガム(キシリトールなど)を噛むキシリトールガムなどを噛むのもお勧めです.う蝕予防効果や唾液分泌の促進によって,う蝕細菌の母子感染予防にも役立ちます.図3-14①~⑨ 初診時(妊娠8か月)の口腔内.上下顎の前歯部の舌口蓋側には妊娠悪阻の嘔吐が原因と思われるエナメル質の酸蝕とう蝕が認められる(図②,⑤,⑧は滝川雅之,柴田眞吾著:特集完全保存版あんしんのマタニティ歯科Q&A.DHstyle.2015;9(108)より許可を得て転載)19.図3-15 同エックス線写真.多数歯にう蝕によるエックス線透過像が認められる.症例1①④⑦②⑤⑧③⑥⑨61

元のページ 

page 4

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です