臨床家のための矯正 YEARBOOK 2016
1/6

048臨床家のための矯正YEARBOOK 2016Molar Oriented Orthodontics(MOO)のコンセプト 永久歯列以降の不正咬合において,骨格的な要因と歯槽性の要因について考えなければならないのは成長期の場合と同じであるが,それに加えて加齢変化にともなう口腔諸組織の変化,とくに,歯の位置づけの変化や歯槽骨の減少などの変化についても考慮する必要がある1.もちろん,これらの要因は単独で起こるわけではなくて,それぞれのさまざまな程度の組み合わせで不正咬合が成り立っている.これらの程度が小さければ簡単な症例といえ,これらの程度が大きいほどいわゆる「難症例」となる. 本稿では2症例の上顎前突症例を示し,諸要因がそれぞれのケースでどのように寄与していて,それに対して「Molar Oriented Orthodontics」(MOO)のコンセプトを使ってどうアプローチしたかを示す.症例1 病的歯牙移動による著しいガミースマイルをともなう骨格性上顎前突症症状 患者は初診時32歳6か月の女性.長期にわたり,近医で歯周メインテナンスを受けていた.患者本人は自分の歯ならびについて気にしていなかったが,下顎前歯が上顎前歯舌側部を噛みこむようになってきたために咀嚼に不自由を感じ,その近医に相談したところ,矯正治療を勧められた.上顎前歯部が犬歯から犬歯にわたって挺出し,スペースアーチとなっている.Overjet 12mm,Overbite 15mm,下顎ALDは9mmであった.重篤なガミースマイルを示し,SNA=87̊,SNB=80̊,ANB=7̊である.側貌はコンベックスタイプで上下顎前突を示す(図1a~j).診断 本症例はANB7̊という前後的な骨格性の問題に加え,臼歯の傾斜と上顎前歯の挺出・下顎前歯の叢生という歯列の加齢変化の特徴的な位置づけがみられる2.歯槽骨辺縁が水平的にやや吸収しており,挺出している前歯部に関しては歯槽骨レベルが歯根の半分以下になっている.このことから,この上顎前歯の位置づけは,慢性歯周病によるpathological tooth migration(PTM)と外傷性咬合による歯の移動の要素を孕んでいると考えられる.ただ,歯周疾患自体はよくコントロールされており,炎症もない状態であった.治療 動的治療に先立ち,すべての第三大臼歯を抜歯した.Molar Oriented Orthodonticsではまず第一段階として臼歯のリポジショニングを行う3.本ケースでの臼歯のリポジションは,上顎は可撤式のバイトプレート付き拡大床で,下顎はリップバンパーで行った(図2a~c).上顎に拡大床を使用したのは,下顎前歯の口蓋への噛み込みを防ぎつつ,下顎臼歯を効果的にアップライトするためである.下顎は臼歯のリポジションが十分に行われてから下顎歯列[日本非抜歯矯正研究会]病的歯牙移動と歯槽骨不足の上顎前突2症例Two Cases Report of Maxillary Protrusion with Pathologic Tooth Migration and with Alveolar Bone InsufficiencyHirohide Arimoto大阪府開業 イースマイル矯正歯科連絡先:〒543‐0074 大阪府大阪市天王寺区六万体町5‐13‐2F有本博英特集 永久歯列の上顎前突を極める 第Ⅰ部 スタディグループによる症例提示

元のページ 

page 1

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です