誰も語らなかった歯科医療紛争の真実
6/6

 最近、保険医療財政の健全化の観点から保険医療費の厳格な執行が大きな問題となっています。それ自体は当然のことですが、具体的な規制手段として保険医療機関の指定の取消しや保険医の登録の取消しが用いられるため、医療機関や医療者の死活問題を引き起こしており、その是非が大きな社会問題となっています(Part2のColumn参照:立法上の不備)。 この問題は保健医療全般に及ぶものであり、医科医療・歯科医療の区別を問いません。特に医科医療においては問題の深刻さが高等裁判所レベルにまで持ち込まれています。最近の東京高裁判決(平成23年5月31日)が第1審である甲府地裁判決(平成22年3月31日)を支持し、保険医療機関指定の取消処分について「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱した違法性がある」として、処分を取り消したことが注目されます(溝部判決)。 本Partはこの問題の本質に迫るべく、歯科医療を例にとって具体的に検討したいと思います。監査の選定基準保険医療機関・保険医取消しの選定基準①診療内容に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき①故意に不正又は不当な診療を行ったもの②診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき②故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの③度重なる個別指導によっても診療内容又は診療報酬の請求に改善が見られないとき③重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの④正当な理由がなく個別指導を拒否したとき④重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの表1 監査及び保険医療機関・保険医取消しの選定基準(いずれか1つに該当するとき、監査や取消処分が実施される) 現行法によれば保険医療機関は、厚生労働大臣による登録を受け、療養の給付を担当しなければなりません。また、保険医のみが健康保険の診療にあたることができます。この原則に反するとき、厚生省保険局長通知「保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について」(2012年)に基づき、厚生労働大臣によって保険医療機関及び保険医に対する指導が行われます。 指導には集団指導、集団的個別指導、個別指導があり、指導は原則としてすべての保険医療機関及び保険医を対象として行われますが、効果的かつ効率的な指導を行う観点から、指導形態に応じて対象となる保険医療機関又は保険医が選定されて行われます。個別指導後の措置には、診療内容及び診療報酬の請求の妥当性などにより、(1)概ね妥当、(2)経過観察、(3)再指導、(4)要監査があります。とくに監査は、表1左項目のいずれかに該当する場合に行われます。監査後の措置として、地方社会保険事務局長は、保険医療機関又は保険医が、表1右項目のいずれか1つに該当するとき、地方社会保険医療協議会に諮問して指定や登録を取り消す(行政)処分を行います。この取消処分は、監査が実施された後、(1)厚生労働省保険局長への取消しに係る内議、(2)行政手続法の規定に基づく聴聞、(3)地方社会保険医療協議会への諮問を経て行われます。おさえておきたい保険医療機関や保険医の規制の仕組み|P a r t 10|保険医療機関の指定・ 保険医の登録の取消処分に関する事例取消処分の妥当性が認められたケース/認められなかったケースP a r t 1P a r t 2P a r t 3P a r t 4P a r t 5P a r t 6P a r t 7P a r t 8P a r t 9P a r t 10保険医療機関の指定・保険医の登録の取消処分に関する事例  101

元のページ 

page 6

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です