誰も語らなかった歯科医療紛争の真実
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 インプラント治療を上顎と下顎で比較すると、下顎に施されるときに歯科医療紛争は圧倒的に多く発現します。具体的には、インプラント埋入時の未熟な技術による下歯槽神経やオトガイ神経の損傷が多く見られるためです。 ここでは、インプラント治療による下歯槽神経麻痺の発症と歯科医師の責任について検討します。責任の根拠は、①医療水準に満たない手技上の注意義務違反が問われるときと、②インプラントの埋入に際し十分な説明が行われていないときです。 ①の手技上の注意義務違反は医療過誤の中心を形成し、医療水準に即した治療が行われたか否かが問われます。それが肯定されると逸失利益や慰謝料などの完全な賠償が認められます。 一方、②の説明義務違反が問われるときは、それが損害の発生に直結するときと(直接の因果関係)、直結しないときに分かれます。後者は損害額の認定(慰謝料)がきわめて低いことから(Part7の事例B参照)、多くの事例においては手技上の注意義務違反が同時に追及されることになるのです。 なお、今回の2例は、インプラント治療において術前のX線・CT画像診断の必要性を論じる際に引用されることも多く、読者諸氏においても関心が高いことでしょう。2002年2月、原告の患者が被告の歯科医院で5に対してインプラント治療を受ける下歯槽神経麻痺を起こした患者が歯科医師に対して賠償請求訴訟を提起術前にパノラマX線、デンタルX線を撮影していたことから画像診断時の注意義務違反は認められなかったものの、ドリリング時およびインプラント埋入時の注意義務違反をはじめとした責任追及がなされ、376万円余りの請求を認容下歯槽神経麻痺を生じたが、X線を撮影していたため、画像診断時の注意義務違反は問われなかった事例事 例 B1997年7月、原告の患者が被告の歯科医院で7667部に対してブレード・ベント・インプラントによる治療を受ける76部のインプラントが動揺したため、被告の歯科医師はこれを抜去し、X線を撮影することなくブレードインプラントを再埋入下歯槽神経麻痺を起こした患者が歯科医師に対して賠償請求訴訟を提起各種損害と慰謝料が認められ、674万円余りの請求を認容下歯槽神経麻痺を生じ、術前にX線を撮影していなかった責任(注意義務違反)が問われた事例事 例 A|P a r t 8|インプラント治療によって 下歯槽神経麻痺が生じた事例術前にX線を撮影していなかったケース/撮影していたケースP a r t 1P a r t 2P a r t 3P a r t 4P a r t 5P a r t 6P a r t 7P a r t 8P a r t 9P a r t 10インプラント治療によって下歯槽神経麻痺が生じた事例  83

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