誰も語らなかった歯科医療紛争の真実
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 次に、インプラント治療の事例を通じて、歯科医療紛争の説明義務違反について検討します。一般の医療紛争および歯科医療紛争においては、説明義務違反が認められる事例は認められない事例を下回っていますが、ことインプラント事例においては、逆に歯科医師の説明義務違反が肯定されることが多く、提訴された事例において説明義務違反が否定された事例を見つけるのが難しい状況にあります。これはきわめて際立った特徴であり、インプラント治療においては、その長所と短所(欠点・リスク)が医療において患者に正確に伝えられていない傾向が強いことを物語っています。インプラント治療は自由診療で、かつ高額なことから、治療が期待していた治療効果を達しないとき、患者は騙されたという印象を強く抱き、高額な医療費を取り戻そうとするのです。 もちろん、インプラント治療のリスクが患者に正確に伝達されないとしても、その程度は千差万別です。それは判決において認容される賠償額の違いとなって現れ、あたかも詐欺に類する重大な説明義務違反(慰謝料と治療費の賠償)から、単なる選択権の侵害と評価される軽微な説明義務違反(慰謝料)まで幅が広いのです。ここで取り上げる2つの裁判例の違いを感じ取っていただきたいものです。2002年9月、上顎は無歯顎、下顎の残存歯も抜去が必要な原告の男性が歯科医院を受診被告の歯科医師はインプラント治療を勧め、フルブリッジおよびオーバーデンチャーについて口頭および小冊子にて説明結果的にオーバーデンチャーとなったことに患者は納得が行かず損害賠償請求訴訟を提起インプラントオーバーデンチャーに関する説明がフルブリッジに比べて不十分であったとして、約50万円の慰謝料を認めるインプラント治療の説明を丁寧に行っていたため賠償金額が少額にとどまった事例事 例 B1996年10月、原告の男性がぐらつく残存歯(前歯)と部分義歯の不具合のため受診被告の歯科医師は上顎に6本のインプラントを埋入したがオッセオインテグレーションは不獲得。5回にわたり埋入手術を行ったが不成功のまま3年後に治療終了患者が歯科医師に対して賠償請求訴訟を提起インプラント治療にともなうリスクの説明を怠ったとして619万5,000円の賠償を認容インプラント治療のリスクに関する説明を一切行わず多額の賠償が認められた事例事 例 A|P a r t 7|インプラント治療の説明内容に 問題があるとして裁判になった事例多額の賠償金額が認められたケース/少額の慰謝料にとどまったケースP a r t 1P a r t 2P a r t 3P a r t 4P a r t 5P a r t 6P a r t 7P a r t 8P a r t 9P a r t 10インプラント治療の説明内容に問題があるとして裁判になった事例  73

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