誰も語らなかった歯科医療紛争の真実
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 不正咬合の治療を主な目的とする矯正歯科は、一般歯科、小児歯科、歯科口腔外科と並んで標榜科目の一翼を占めますが、それが審美性を追求するときは審美歯科領域と、小児を対象とするときは小児歯科領域と競合することになります。このため、矯正歯科治療に関する紛争は、裁判においては多様な形態として表われ、近年、紛争が増加する傾向にあります。それは医科において形成外科の紛争が増えてきていることとも対応しています。 矯正歯科においては、それが審美目的で行われるとき保険適用がないこと(自由診療)、また治療が長期に及ぶことから、治療費が高額に上る特徴があります。法律的にはその間における矯正技術の是非が医療水準に合わせて問われるのはもちろんのことですが、患者に対し事前の十分な説明が行われた否かが重要な争点となります。 以下に取り扱う事案は、小児の歯根吸収をどの程度防ぐことができたかが問われ、また矯正治療中のブラッシング指導が十分であったかどうかが問われています。それぞれの事件には事案の特殊性がありますが、そこでの問題点を指摘しながら、矯正歯科治療における問題の本質に迫っていくことにしましょう。原告の患者(受診時14歳)は、1993年〜2001年まで被告病院の小児歯科および矯正歯科において歯の矯正治療を受けた小児歯科での治療後に開咬と重篤な歯根吸収が発生し、その後矯正歯科での治療でさらに前歯部の歯根吸収が悪化したと患者は主張。被告ら(2人の歯科医師)に歯根吸収発生を防止する注意義務違反、および歯根吸収の危険性を説明しなかった説明義務違反があったとして提訴患者の主張はいずれも認められず、棄却矯正治療後に歯根吸収・開咬が生じたとき歯科医師の注意義務・説明義務違反が問われたが棄却された事例事 例 B原告の患者は1998年3月~1999年11月にかけて動的矯正を受け、その後2002年1月8日まで装置を取り付けての保定を行った保定終了後、固定式保定装置が装着されていた上下切歯4本の裏側に虫歯(う蝕)が認められた保定期間中、適切な処置をとらなかったことが診療契約の債務不履行であるとして提訴被告の歯科医師らには、患者の虫歯発生により生じた損害を賠償すべき責任があるとして約55万円の支払いを命じる矯正治療中のブラッシング指導が不十分だったことによりう蝕を発生させたとして、損害賠償(慰謝料)が認められた事例事 例 A|P a r t 4|矯正治療後に生じたトラブルに関して 歯科医師の責任の有無が問われた事例賠償責任が認められたケース/認められなかったケースP a r t 1P a r t 2P a r t 3P a r t 4P a r t 5P a r t 6P a r t 7P a r t 8P a r t 9P a r t 10矯正治療後に生じたトラブルに関して歯科医師の責任の有無が問われた事例  43

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