誰も語らなかった歯科医療紛争の真実
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 歯科医療とは「患者の口腔内に存在する疾患を除去、欠損を修復補綴して、正常な口腔の形態や機能を回復し、患者が支障なく社会生活を営めるようにすること」(総山孝雄『歯学概論』1参照)とされ、疾患の中心はう蝕(虫歯)と歯周病にあるものとされます。このため、ここでは虫歯の治療を始め欠損部位の修復を目的とする補綴や保存治療が大きな役割を果たすことになります。 ところで、歯科系医療紛争を治療科目別に概観すると、上記の理由のため補綴・保存、歯周病に関する紛争が多くなり、この他に麻酔・口腔外科やインプラント治療関係の紛争が多くみられることになります。これを医科系の医療紛争になぞらえて言えば、歯科医療は同じ外科系医療でありながらも、|P a r t 1|適切な補綴治療が行われたか否かが 問われた事例賠償請求が認められたケース/認められなかったケース補綴・保存・歯周病などは内科系の医療紛争に類似しており、麻酔・口腔外科・インプラント治療などは外科系の医療紛争に類似しています。 この比率は医科系医療紛争においてはおよそ1対2の割合ですが(植木 哲『医療の法律学』2参照)、歯科系医療紛争においてもほぼ同様の傾向にあるように思われます(ただし資料不足で数値の証明はなされていません)。 そこで、まず最初に補綴や保存に関する事例を取り上げ、そこで生じる問題点を明らかにすることにしましょう。そして引き続き、純粋な外科系歯科医療の中心をなしているインプラント治療の紛争を検討し(Part6〜9)、最後に保険医療制度にまつわる紛争事例を取り上げることにします(Part10)。原告の患者は1998年ごろから2007年ごろにかけて、被告の歯科医師から補綴物(ブリッジ、単冠、さし歯)を装着する治療を受けた治療に際し、事前のX線検査、適切な支台築造・咬合調整、補綴物の耐用年数などを説明しなかった過失があると原告が主張して、被告の歯科医師を提訴歯科医師の過失を一部認め、242万1,950円の支払いが命じられる補綴治療において、支台築造に際し検査・治療内容が十分でなかったとして損害賠償責任が認められた事例事 例 A原告の患者は22を整形して大きくしたいと考え、1995年に被告の歯科医師が勤務する歯科医院を訪れ、審美治療をする契約を結んだ。歯科医師は、22を形成するにあたって患者の同意を得ずに奥歯から整形し、前歯2本を不適切な治療で出っ歯にし、しかも破折しやすい補綴物を装着して奥歯3本が破折したと主張して提訴患者の請求はいずれも理由がないとして、棄却審美回復を目的に受診し、不適切な補綴治療が行われたとして歯科医師の責任を追及したが、責任が否定された事例事 例 BP a r t 1P a r t 2P a r t 3P a r t 4P a r t 5P a r t 6P a r t 7P a r t 8P a r t 9P a r t 10適切な補綴治療が行われたか否かが問われた事例  13

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