咬合のサイエンスとアート
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240第5部 咬合高径目次■成長と発達■下顎位,安静時の姿勢,下顎安静位■安静時の姿勢と筋電図ベースラインのメカニズム■咬合高径の増加と減少およびその顎関節症(TMD)との関連■顔面高径と顎間距離■咬合高径の回復■咬合高径の変更:治療計画のための考慮事項■新しい咬合高径を確立するための6つの臨床指針成長と発達 咬合高径(Occlusal Vertical Dimension;OVD)の回復と維持は,臨床歯学のうえで重要な役割を担う.口腔リハビリテーションというこの重要な側面に関連した臨床的な疑問について,本項では述べる. 乳歯列期,混合歯列期および永久歯列期といった遺伝的に定められた成熟過程を通じて,歯・骨格および顔面構造は整然と成長・発達し,その結果として咬合高径が定まる.臼歯は,前歯とともに咬合高径を維持する.例外として,AngleⅡ級1類不正咬合,AngleⅡ級2類不正咬合でみられる重度の垂直被蓋,前歯開咬がある. (下顎の)姿勢位から,口呼吸,発話,および他の正常な日中・夜間の(顎口腔)機能が生じる.この姿勢位を安静にするなら,成長期間中に下顎は発達する. 乳歯列期,混合歯列期,永久歯列期を通じた成人までの成長期間中に,姿勢位は垂直的咬合位の変化に徐々に順応する(図5-1,5-2)1.代償性挺出 摩耗(wear)もしくは破損あるいは対合歯の喪失により歯が喪失した症例の一部では,単独歯あるいは複数歯の挺出が生じるかもしれない.この過程は,咬合高径を維持するための代償的機能とされるが,その機序はよく理解されていない2,3. 337体の太古乾燥頭蓋骨を用いた研究では,中等度から重度の摩耗症例を比較して,代償的な歯の挺出と広汎な歯槽骨成長は,摩耗による咬合面喪失のために生じた顔面高径の喪失の50%を代償していた2. 骨格性の顔面高径は,歯の咬合接触によるバーティカルストップによって維持されている.顔貌は基本的には安静時の姿勢によって決定される(図5-1).歯の喪失,摩耗あるいは破損による咬合高径の低下は,咬合時の骨格的な顔面高径を減少させる.そして咬合高径の低下は閉口時と姿勢位において顔貌を時に変化させることがある.顔面高径は咬合高径の骨格性喪失を必ずしも反映しているとは限らない.下顎位,安静時の姿勢,下顎安静位 不変で定常的な安静位は唯一無二であり,この安静位は咬頭嵌合からのフィードバックには左右されず,生理的安静時の筋肉の長さに依存するという概念がある.長年にわたって,臨床家はこの概念とともに成長してきた.安静時の顔面高径は若年で確立され,不変で恒常的であるとされてきた4-10.顔面高径の定常性概念 この「顔面高径の定常性概念6」は長年にわたって強い影響力を発揮してきた.「安静空隙」を侵害することは,新たな咬合高径への筋肉組織の適応を惹起するため,歯槽の過圧につながる外傷や下顎機図5-1a〜c 下顎安静位は,身体姿勢,睡眠,注意,口唇接触,および多くの他の変動因子によって変化する.a bc図5-2 咬合高径(OVD).安静時顎間距離(RVD).かつて「フリーウェイスペース」と呼ばれていた安静空隙(Interocclusal rest space;IORS).この距離は,下顎が安静時の姿勢を取った時の咬合面間距離である.通法ではこの距離は,最大咬頭嵌合(MI)からの切歯間垂直距離として計測される.咬合高径安静時顎間距離安静空隙

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