オーラルメディシンに基づいた次世代の歯科診療
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●顎関節の痛みがあるか,筋肉の痛みがあるか,大きく口が開くか聴いていますか?1.顎関節症との鑑別 開口障害をきたす代表的疾患は顎関節症ですが,ほかにも多くの疾患が考えられます.歯性病巣からの炎症や骨折(外傷)による開口障害は,問診で経過や自覚症状を聞き出すことで,比較的鑑別がつきやすい疾患です. しかし顎関節部の腫瘍,咀嚼筋に進行した口腔癌や,顎関節強直症などは,経過や自覚症状では判別しにくく,画像検査などで,顎関節症との鑑別が必要となります.開口状態の診療だけでは正確な診断は難しいため,できるだけ多くの情報を得る必要があります.2.顎関節症の病態分類 顎関節症は,顎関節や咀嚼筋の疼痛,関節(雑)音,開口障害ないし顎運動異常を主要症候とする総括的診断名です.その病態には咀嚼筋障害,関節包・靱帯障害,関節円板障害,変形性関節症などが含まれています.病態にはバリエーションがあり,進行性の病理学的変化をしているものから精神心理的要因で発症し,器質的異常が認められないものまでさまざまです.したがって顎関節症を正確に診断するためには,顎関節の総合的な診察が求められます.顎関節症の病態分類は2013年日本顎関節学会により表1のようになっています.3.病態の把握と非観血的療法 顎関節の診断を進めるうえでは,パノラマエックス線写真は必須です.まずパノラマエックス線写真により炎症,外傷,腫瘍などの除外診断を行います. 顎関節症の病態を把握するために,疼痛の部位(顎関節か,周囲の咀嚼筋か)について,触診により特定します.また咀嚼時痛がある場合には硬固物の摂取が難しくなります. つぎに顎関節の前方滑走について下顎頭の触診によって診療します.下顎頭の触診は両手を左右の顎関節部にあて開閉口運動を指示します.ゆっくり開口を指示すると障害のある側は下顎頭の滑走運動が障害されるため,下顎は患側に偏位します. そして,下顎頭の変形を診るためにはパノラマエックス線写真の診断は欠かせません.咀嚼筋障害が否定され,顎関節円板障害を疑う場合はMRIが必要になります.MRIによる関節円板の偏位が確定診断になります(図1a,b). 顎関節症の非観血的療法には,スプリント療法,薬物療法,理学療法(訓練療法を含む),カウンセリング(認知行動療法)が挙げられていますが,有効なエビデンスは証明されていません.咀嚼筋痛障害に対しては,条件つきでスタビライゼーションタイプのスプリント療法が推奨されていますが,顎関節学会により顎関節症の初期治療ガイドラインがホームページ上に掲載されていますので,一読すると良いでしょう.表1 顎関節症の病態分類(2013年:日本顎関節学会による)・咀嚼筋痛障害(Ⅰ型)・顎関節痛障害(Ⅱ型)・顎関節円板障害(Ⅲ型)a.復位性b.非復位性・変形性顎関節症(Ⅳ型)図1a,b 顎関節症.復位をともなわない関節円板前方転位(Ⅲb型)のMRI.a:閉口時.b:開口時.→の部分が関節円板の後方肥厚部.閉口時にすでに前方に位置している.開口時にはこの肥厚部が障害になり下顎頭の前方滑走運動を妨げている.a|b現在の歯科診療とこれからの歯科診療との違い63

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