インプラントYEARBOOK2016
2/6

巻頭特別座談会はじめに─超高齢社会と生活習慣病─萩原(司会) 本日は,「生活習慣病予防のためのインプラント治療」をテーマにした座談会ということで,まずは私から議論のためのアウトラインをご提示したいと思います. わが国のような超高齢社会では,医科だけでなく歯科においても「健康寿命の延伸」に対してどう関与できるかが大きなポイントになります(図1).なかでも,歯科ではオーラル・フレイル(Oral・Frail:食環境の悪化から始まる筋肉減少を経て最終的に生活機能障害に至る構造1))が問題になっています. 図2は生活習慣病のドミノを表わした有名なイラストですが,歯科が介入できるのは生活習慣,もしくはその前にある栄養管理なので,上流の段階になります.そこで重要になるのは口腔からの食物の摂取,つまり咀嚼機能の回復ですから,補綴処置であるインプラント治療は非常に有効な手段といえます. 大規模な歯列欠損となる前にインプラントを用いて欠損の拡大を防ぐ方法も広く認識されていますが,多くの場合,特に臼歯部を含めてすでに咬合崩壊が始まっている患者さんの咀嚼機能を回復する目的で用いられています.今後われわれ歯科医師が目指すべきは,「いかに健康寿命を延伸させ,QOLを向上させるか」になるでしょう.インプラントは健康増進に寄与できるのか? 図3は古い症例ですが,高度の骨吸収に対してインプラントを埋入して機能が著しく回復しました.この方はQOLが向上し,引きこもりの生活も治り,家族もおばあちゃん用の食事を作らなくてもいいようになりました.この症例を今になって振り返ると,咀嚼機能が回復し,患者さん・家族のQOLも回復したといえます.しかしながら,健康増進についてインプラント治療で健康寿命を延伸できるのか?1「インプラント治療後に患者さんが体に良いものを食べて健康になることまでが歯科医師の仕事であると拡大解釈していくべき」図1 平均寿命と健康寿命の関係.こうした課題を見据え,今後は歯科(インプラント・補綴)治療のエンドポイントを「機能回復」から「健康回復・維持」へといかにシフトしていくかが求められる.男性女性80歳70歳平均寿命 86.30歳平均寿命 79.55歳60歳課題いかにして健康寿命を先に伸ばすか(不健康余命を短縮するか)健康寿命 73.62歳不健康余命 12.68年健康寿命70.42歳不健康余命 9.13年図2 生活習慣病のドミノ.歯科が介入できるのは生活習慣や栄養管理であり,上流でドミノをせき止めることに寄与できる(慶應義塾大学腎臓内分泌内科・伊藤 裕先生より).糖尿病遺伝・体質生活習慣肥満インスリン抵抗性インスリン抵抗性脂肪肝インスリン分泌不全マクロアンギオパチーミクロアンギオパチー虚血証心疾患脳血管障害ASO神経症網膜症腎症心不全認知症脳卒中下肢切断起立性低血圧ED失明透析高血圧脂質異常症食後高血糖上流でのせき止め10巻頭特別座談会

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 2

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です