咬合 YEARBOOK 2016
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12別冊 the Quintessence「咬合YEARBOOK 2016」1総論はじめに──咬合は難解なもの? 咬合は歯学のあらゆる分野にわたる共通かつ重要なテーマである.それゆえ,古くから数々の咬合論が提唱されてきた.そして,数多くの咬合論が提唱されてきたために,後世の歯科医師は,咬合論は俯瞰的に理解するのが難しく,「咬合は難解なもの」と考え,数ある咬合論のなかのある一つの咬合論やある学派の咬合論に左右されがちである. さらに,これらの咬合論の多くは理論面よりも,咬合器などの特定の器具の臨床への導入と,その臨床的手順として捉えられていて,咬合論を「いろいろな臨床的局面にどのように取り入れるのか」については多くの問題を残しているように見受けられる.  そこで本稿では,これまでにどのような背景で咬合論が発展してきたのか,創世記から現在に至るまでの歴史的変遷を概観する.さらに,過去の権威ある大家らの咬合論を取り上げ,これらを基盤に咬合に関する現状について考察したい.1.咬合論の萌芽咬合論は総義歯咬合の概念からスタートした 咬合に関する研究が盛んに発表されたのは19世紀後半になってからである.当時は,歯の保存治療が難しかったので,悪い歯を抜歯して必要に応じて義歯を装着するという治療が主流であった.そのなかで総義歯は技術的にも理論的にも困難であったため,総義歯を対象とした咬合理論が提唱され,それを具現化する咬合器や人工歯が開発された. すなわち,咬合論は総義歯咬合の概念からスタートしたともいえる.初期には下顎の機能と解剖を再現するため,ボンウィル三角(1858年)1,バルクウィル角(1866年)2,スピーの湾曲(1890年)3など(図1~3),ヒトの解剖的特徴を基準とした“解剖学的咬合論”が論じられた.咬合は変わったか?咬合論の歴史的変遷と過去の大家らの咬合論を通して考えるKiyoshi Koyano/Rika Kuwatsuru/Yo Yamasaki九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座インプラント・義歯補綴学分野連絡先:〒812‐8582 福岡県福岡市東区馬出3‐1‐1古谷野 潔/桑鶴利香/山﨑 陽

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