抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実
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145確信性の程度定 義高い(A)真の効果が効果推定値に近いという確信がある。中等度(B)効果推定値に対し、中等度の確信がある。真の効果が効果推定値に近いと考えられるが、大幅に異なる可能性もある。低い(C)効果推定値に対する確信には限界がある。真の効果は、効果推定値とは大きく異なるかもしれない。 非常に低い(D)効果推定値に対し、ほとんど確信がもてない。真の効果は、効果推定値とは大きく異なるものと考えられる。表7-1 確信性の程度の分類と定義誤× 「エビデンスの質」=いわゆるエビデンスレベル× 「エビデンスの質」=研究デザイン× 「エビデンスの質」=「個々の研究の質」正○ 「エビデンスの質」=「確信性の程度」○ 「個々の研究の質」=「バイアスのリスク」○ エビデンス=body of evidence表7-2 「エビデンスの質」の解釈・使い方の誤と正。 エビデンスの質という用語は、エビデンスの効果推定値(いろいろなエビデンスをまとめた代表のような値)の確信性の程度と同義である。これは、ランダム化比較試験が、観察研究より質が高いというような、研究デザインのみで判断されるわけではない。また、「エビデンスの強さ」と独自の表現を使う団体もある。 一方、これを表現する場合、「エビデンスレベル」と表記する診療ガイドラインもある。多くは、研究デザインのみの区別を「エビデンスレベル」と定義し、それをエビデンスの質であるとして使用しているが、誤りである。表7-2のような誤解・誤用が蔓延しているので、注意が必要である。 さらに、個々の研究論文に対し「質」の評価をしているという誤用も多い。「個々の研究(論文)の質」を「エビデンスの質」と表現するなどの誤ちを避けるため、「個々の研究の質」は、「その研究には、偏り(バイアス)が多い・少ない」と表現すべきである(本書では「バイアスのリスク」としている)。 エビデンスは、「body of evidence」(1つの情報源だけで判断するのではない)であるべきなので、いろいろな研究の結果が一致しているか調べたり、患者層が似ているかを検討したりすることで総合的に判断した場合にのみ、エビデンスの質が高い・低いと表現する。近年では、システマティックレビューの際に行われたメタ分析の結果の数字(効果推定値)には、必ず「確信性の程度を評価すること」とされている。○エビデンスの確信性の程度(エビデンスの信頼性・エビデンスの質)→ エビデンスから得られた結果が、どの程度の確信性をもっているか客観的に評価したもの(表7-1)。○エビデンスの確信性の程度に関係する5要因→ 「①エビデンスのもとになる研究のバイアスのリスク」「②得られた研究間の不一致」「③得られた研究が自分の臨床現場と類似するか」「④得られた研究の症例数が少ないなどの不精確」「⑤他に発表が行われていない研究がないか」などの5つの要因のこと。 これらの要因によって、エビデンスの効果推定値に対する確信性の程度・エビデンスの質を、「非常に低い・低い・中等度・高い」と4段階に評価することが多い(表7-1)。 エビデンスの効果推定値の確信性の程度を評価する5要因を理解すると、「ランダム化比較試験であればエビデンスレベルが高い」「観察研究であればエビデンスレベルは低い」というように単純に判断することがなくなる。 複数の、しっかりと行われた(バイアスのリスクが小さい)ランダム化比較試験であっても、論文間の結果が一致していなければ、エビデンスの確信性の程度は低いと判断できるようになる。 すなわち、研究デザインのみで分類しているエビデンスのヒエラルキー(上にシステマティックレビューやランダム化比較試験があり、下に症例報告などがある図)を、そのままエビデンスの質の順番と考えないことが重要である。エビデンスのヒエラルキーは、忙しい臨床医が、よさそうな論文を素早く見つけるための最初のステップにしかすぎない。その後、きちんとエビデンスの確信性の程度を評価するべきである。 大切なことは、「真のアウトカム」と「代替のアウトカム」を区別することである。「真のアウトカム」とは、患者本人にとって重要なことであるが、「代替のアウトカム」とは、研究上は重要であるが、患者本人にとっては興味のないことである。う蝕治療の研究でたとえると、真のアウトカムは「歯が満足に一生使えること」で、代替のアウトカムは「詰めたものの接着力」と考えられる。○アウトカム(outcome)・代替のアウトカム・真のアウトカム・エンドポイント→ その治療が行われた結果のこと。

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