99.398.899.535~44 先進国に分類され、国民皆保険制度が整っている日本においては、12歳児のう蝕経験歯数は2020年には0.68本にまで低下しており2、若年層でのう蝕は確実に減少しています。一方で、成人以降の年代ではほとんどすべての人がう蝕を経験しているのが現状です。1970年代をピークとして昭和の日本は、「むし歯の洪水」と言われるほど、子どものう蝕が多い状況でした。そのせいで、令和の日本でも成人のう蝕は多く、年代は異なれど、やはり「むし歯の洪水」は存在しているように見えます。 では、なぜ成人のう蝕が多いという結果になっているのでしょうか。単純に、う蝕に罹患するタイミングが成人以降に後ろ倒しになっているだけなのでしょうか。 「う蝕経験歯を有する者の割合の年次推移」の棒グラフについては、Introduction(P.19図7)でも示しましたが、先ほどの疑問を探るために、今回は別の視点で見てみましょう。図1-1は、棒グラフの一部を抜粋して折れ線グラフに変えたものです。生まれ年の違いによって、4つのグループに分け、それぞれの傾向を示してみました。 1983年の時点で5~9歳だったAグループの年齢層については、10代後半の時点ですでにほとんどの人がう蝕を経験しており、そのまま50代前半となっていることがわかります。1988年に5~9歳だったBグループの年齢層に比較し、1993年の時点で5~9歳だったCグループの年齢層の人たちは、19歳以下の時点まではう蝕をもつ者の割合が低く保たれていますが、20歳以上になるとほとんどその差はなくなってしまいます。一方で、2005年に5~9歳だったDグループの年齢層の人たちは、10代後半になってもう蝕を経験した者の割合は低く保たれています。 このようにグラフを見ていくと、う蝕に罹患するタイミングが成人以降に後ろ倒しになっているのではなく、高いう蝕有病率であった昭和に子ども時代を過ごした世代が、令和の中高年であるということがわかります。だから、う蝕経験歯数や2次う蝕による未処置歯数が多いのでしょう。Dグループの若い人たちが、一生涯に渡って現在の低いう蝕経験者の割合をキープできれば、「日本人のう蝕は減少した」と自信をもって言える日が来るのでしょう。 一方、高齢者においては、近年う蝕経験歯数が増えており、その要因としてう蝕経験歯を抜歯することなく維持できていることが考えられます。さらに、進行した歯周病に対する治療を受けたことのある歯では、露出根面の面積が大きくなり、根面う蝕のリスクが高まります。このことも、高齢者のう蝕経験歯数が増加している要因だと考えられます。(文献1より引用改変)1983年の時点で5~9歳だったAグループ1988年の時点で5~9歳だったBグループ1993年の時点で5~9歳だったCグループ2005年の時点で5~9歳だったDグループ45~54(歳)う歯を持つ者の割合の年次推移(永久歯、5歳以上)。1993年、1999年、2005年、2011年、2016年の調査結果をもとに、各グループを想定して傾向を示した。※1988年以前については、う蝕の診査方法が異なるため、データを掲載していない。第1章 日本と世界のう蝕事情27たしかに12歳児のう蝕は減っているが、成人以降は減っていないデータを注意深く読み取ると見えてくる真実高齢者では根面う蝕が増えている
元のページ ../index.html#4