ホームドクターによる子どもたちを健全歯列に導くためのコツ
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医院に通っている成長期の子どもたちの口腔内に現れる異常にいち早く気がつき対応できるのが,かかりつけ医の最大の良さである.異常を見逃してしまい手遅れになり,一生その歯列・咬合で過ごさなければならなくなったり,その後の矯正治療が複雑になるのでは,かかりつけ医としての責務を果たしたことにはならない.この本の大きな目的は,成長期の異常のみつけ方とその対応の仕方をわかりやすく解説し,かかりつけ医に取り入れてもらうことにある. 開業以来,成長期に現れる異常をその時点で改善していくという,いわゆる咬合誘導,一期治療を行ってきた.早期に治療を行っても将来無駄になるとか,すべてを咬合誘導で改善できるわけでないという意見も多く聞いてきた.しかし,「悪くなることがわかっているなら,今から何とかしてほしい」という親からの切実な思いに後押しされ,数多くの症例に早期に対応してきた.予防医学が進んできた現代に,「悪くなってから治しましょう」という説明に納得する親は少ない.自信をもって始めたことではなかったが,手がけた症例の経過を追っていくと,いつの間にか永久歯列で正常咬合を獲得する子どもたちが院内に多くなり,かかりつけ医が成長期の歯列・咬合にかかわることに大きな意味があることを確信するようになってきた. 一方で,完全な正常咬合とはいえないものの,機能的に許容できる範囲でおさまる症例や,思いどおりにいかなかった症例も経験し,どこまでかかりつけ医がかかわり,どこからが矯正専門医の範疇なのかの線引きもわかってきた. かかりつけ医の目標は,“子どもたちをう蝕のない健全な永久歯列の成人にしていくこと”であり,その時点で歯列が改善しても,将来それがどうなったのかが示されなければ意味がない.かかりつけ医のなかには咬合誘導の重要性を感じているものの,その予後が示されていないことが咬合誘導の成果を否定,疑問視する根拠になっている気がする.そのため,筆者は講演会や論文執筆などでも,永久歯列が完成した時点まで示すことを1つの決めごととしてきた.書籍執筆の際には,それぞれの項目の代表的な症例について成人まで経過をだしたいと考え,先延ばしにしてきた.今回,残念ながらそれには至らず道半ばで発刊ということになってしまった.成人までと考えると,1つの症例を提示できるまでに約15年は必要であり,その間に筆者の考えも少しずつ変化してしまう.先延ばしにしているうちに子どもたちが適切な治療の時期を逸したり,筆者と同じ間違いを若い先生方がしてしまうのであれば歯科界の進歩はないと考え,今わかっていることだけでも伝えられればと思い発刊することにした.成人になるまで追えなかった症例については,できるだけ永久歯列完成までの経過を提示してある.成人に至っていない症例に対しては「この後,どうなっていくのだろう?」という疑問をもって症例をみていただきたい.口腔内写真やエックス線写真は,すべてとはいえないが,できるだけ同じアングルで撮影することを心がけて提示してある.その写真を比較するなかで何かを読み取り,その後を予測していただければと思う.筆者の責任として,講演や執筆のなかでこの後の経過を示していければと考えている.2015年春須貝 昭弘序 文

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