TMD YEARBOOK 2013 顎の痛みに対処する
2/8
3章 スプリント療法のClassic Evidence4章 世界の最新潮流を読む「JOURNAL OF OROFACIAL PAIN」より1241女性における顎関節症による疼痛と片頭痛:予備的双生児研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・Plesh O. et al.(翻訳:矢谷博文/稲野眞治,解説:矢谷博文)1342咬合は自己申告によるブラキシズムと関連していない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Manfredini D. et al.(翻訳・解説:酒井拓郎/馬場一美)1413歯の接触とクレンチング:口腔異常習癖と顔面痛 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・Glaros AG. et al.(翻訳・解説:玉置勝司)106スプリント療法のClassic Evidenceその歴史的・学術的背景から最新の研究成果を学ぶ鱒見進一106別冊the Quintessence 「TMD YEAR BOOK 2013」1950年1960年1970年2.各種スプリントの治療効果に関する検討の時代1.TMDに対するスプリント療法の始まりAACDによるTMDの症型分類1980年リポジショニングスプリント1972年,Farrarがリポジショニングスプリントを紹介文献01☞115ページピボットスプリント1978年,Lousが両側にピボットを付与したスプリントを装着した後,オトガイ部を上方に牽引するよう力を加えることにより,臨床的に良好な結果が得られたと症例報告TMD治療にピボットスプリントを適用した最初の論文1956年Searsがピボットスプリントを報告文献00☞115ページ各種スプリント療法の歴史図1スタビライゼーションスプリント1966年,Ramfjordらがスタビライゼーションスプリントを紹介Zarbらや(1970年),Greeneら(1972年)は,スタビライゼーションスプリント使用による症状消退後に咬合調整を行うことが必須であると報告1962年,Posseltによるスタビライゼーションスプリントの報告診断装置としての役割とともに,TMDの症状の消退を図る治療装置としての役割を兼ねる考え方p106-122_TMD_YB_03.indd 10613/09/27 13:51107別冊the Quintessence 「TMD YEAR BOOK 2013」2000年1990年3.他の保存療法との比較検討の時代ADAによるTMDの症型分類を含むガイドライン1982年質の高い研究論文の増加しかし,スプリント療法の明確な優位性は証明されないまま1984年,Clarkが質の高い研究が欠落していることを喚起文献06☞118ページ文献02☞116ページ1988年,Westessonらは,リポジショニングスプリントを一定期間装着させても,使用を止めれば高率で円板転位が再発することを報告1988年,Okesonらは,リポジショニングスプリントの削除調整で下顎頭と円板の復位を試みても,円板転位が再発することを報告文献03☞117ページリポジショニングスプリントの使用目的が「顎関節内障に対する円板整位」から「顎関節部の適応による自覚症状の消退」へ変化1985年,1989年顎関節内障に対する治療法として,リポジショニングスプリント+αの二段階治療法の確立⇒批判1995年,Simmonsらは,リポジショニングスプリント装着直後に転位円板は96%の関節で下顎頭上に整位すること,さらに非復位性関節円板前方転位に対しても有効と報告文献08☞120ページ1989年,OkesonやDawsonが,筋の走行を考慮するとピボットスプリントにより下顎頭を下方に牽引する効果は期待できないと報告口腔外科におけるパンピングマニピュレーションの増加とピボットスプリントの使用頻度の減少1988年,Wennebergらは,スプリント療法を併用した方が咬合調整のみよりも治療効果があると報告⇒コントロール群を有さず,真の治療効果は不明文献05☞118ページ1986年,Itoらは片側型のピボットスプリントを装着した場合,前頭面ではスプリントの接触部を支点として回転運動およびテコの作用が生じ,下顎頭を下方へ牽引することが可能であることを報告文献04☞117ページ1991年~1999年TMDに対するスタビライゼーションスプリントの良好な臨床成績の報告文献07☞119ページ⇒しかし,自然消退によるものである疑いは払拭できず現時点の見解・ スプリント療法は,いまだにエビデンスが確立されたわけではないが,現時点では顎関節症の治療法としてもっとも一般的・ 行動療法,理学療法,薬物療法などの他の療法を考慮したうえで,単独あるいは併用療法を行うことが望ましい2009年,Demlingらは,22名の健常者に対して,ピボットスプリントとスタビライゼーションスプリントを装着させてクレンチングを行わせ,顆頭位の変化について検討したところ,いずれのスプリントも下顎頭が前下方に移動するが,文献09☞120ページスプリント間の差は認められなかったと報告AADRがTMD 基本声明を発表2010年p106-122_TMD_YB_03.indd 10713/09/27 13:51患者説明にはもちろん,学生・研修医・勤務医等へのテキストとしてもご活用ください特別綴じ込み付録:患者向けTMDパンフレット本付録は巻末に綴じ込んでいます誰がかかるか,わからない 「顎関節症」(がくかんせつしょう)に要注意!5顎関節症像(関節円板前方転位)■関節性の顎関節症(顎関節に問題のある顎関節症)は,通常,顎関節の硬組織や軟組織の炎症や変性によって引きこされます.よくみられる顎関性の顎関節症には,関かんせつほうえん節包炎,滑こつまくえん膜炎(炎症)や関節円板位置異常(関節内障とも言われます),変形性関節症などがあります.前方転移した関節円板外側翼突筋下顎頭(関節頭)耳孔咬筋深部関節円板後部組織q001-014_TMD_YB_huroku.indd 513/09/27 14:266異常な顎関節(形態変化やそのほか退行変性をともなう関節円板前方転位) 顎関節症の原因は明確ではありません.というのも,通常は顎関節症は複数の症状を示すことが多く,原因も1つだけということは稀まれなためです.顎関節症は,顎の損傷(外傷)や関節疾患(関節炎)などを含む,いくつかの要因が共に働いた結果生じると考えられています. 歯の“くいしばり”や“歯ぎしり(ブラキシズム)”,頭や首の筋肉の緊張は,顎関節症の原因であると科学的に立証されてはいませんが,顎関節症の症状を長引かせる要因であると考えられており,顎関節症治療するためには,これらをコントロールすることが必要となります. 患者さんにとって重要なことは,顎関節症はもともと慢性の病気で,精神的な状態も含めた様々な要因とかかわりがある疾患であることを理解することです.なぜなら,顎関節症には“手っ取り早い解決法”や“即効性のある治療”はなく,もっとも効果的で科学的な裏付けのある治療方法は,自己管理(セルフマネージメント)や悪化を招く要因をコントロールすることだからです.顎関節症の原因形態変化を伴う前方転移した関節円板関節円板後部組織耳孔咬筋深部外側翼突筋下顎頭(関節頭)q001-014_TMD_YB_huroku.indd 613/09/27 14:26誰がかかるか,わからない 「顎関節症」(がくかんせつしょう)に要注意!3口を開けたときの頭部の諸組織側頭筋関節結節円板耳孔下顎咬筋浅部咬筋深部下顎頭(関節頭)胸鎖乳突筋顎二腹筋後腹上顎僧帽筋q001-014_TMD_YB_huroku.indd 313/09/27 14:264■咀嚼の時に働く筋肉(顎の筋肉)は下かがくこつ顎骨(下あご),上じょうがくこつ顎骨(上あご),頭蓋骨や舌ぜっこつ骨に付いています.顎の筋肉を使って,口を開けたり,閉じたり,前方や側方にスライドさせたりすることで,話す,噛む,飲み込むといった動作を行います.咀嚼を補助する筋肉(首や肩の筋肉群)は,顎を動かす時に頭蓋骨を首の上で安定させる働きがあります.■筋性の顎関節症(筋肉に問題のある顎関節症)は,通常,咀嚼の時に働く筋肉および咀嚼を補助する筋肉の過労や疲労,緊張などから起こるもので,顎の痛みや頭痛,時に頸部の痛みなどが引き起こされます.正常な顎関節(口を開けているとき)関節結節関節窩耳孔関節円板後部組織円板下顎頭(関節頭)外側翼突筋咬筋深部q001-014_TMD_YB_huroku.indd 413/09/27 14:26誰がかかるか,わからない 「顎関節症」(がくかんせつしょう)に要注意!1 顎がくかんせつしょう関節症(TMD)は,口と顔面に痛みを生じる障害(口腔顔面痛)の一つです.顎関節症には大きく分けて,顎あごの筋肉に問題がある顎関節症(筋性の顎関節症)と,顎関節(あごの関節)に問題がある顎関節症(関節性の顎関節症)の2つのタイプがあります. 顎関節症の症状は,耳,顎関節,両側または片側の顎や顔面,こめかみ,首の筋肉,およびその周辺に発生する痛みや違和感などです.痛みは突然発生し,痛みの頻度や強さが変化しながら数ヶ月から数年にわたり持続します.また,コリッという音(クリック)やはじけるような音(ポッピング),きしむような音(クレピタス),顎がひっかかって口が開かないまたは開けにくくなること,顎を動かした時に顎が左右どちらかに偏る顎関節症の兆候●頭痛●耳の痛み●顎あごの痛み●首の痛み●顎関節の音*クリック*ポッピング* ギシギシこすれ 合う音●口を開ける ときの異常*顎のひっかかり* 顎がロックして 開かない*運動の制限* 顎の左右への 偏へんい位はじめに顎関節症とは?側頭筋咬筋浅部顎二腹筋後腹咬筋深部下顎頭(関節頭)僧帽筋円板耳孔胸鎖乳突筋上顎下顎q001-014_TMD_YB_huroku.indd 113/09/27 14:262 顎関節の動きには多少のゆとりがあり,回転だけでなく前後にスライドする関節です.軟骨に包まれたラグビーボールのような形をした関かんせつとう節頭,繊維性のクッション(関かんせつえんばん節円板),軟骨に覆われたくぼみ(関かんせつか節窩),靭じんたい帯,腱けん,血管,神経などで構成されています.関節円板は,運動時のクッションとして,また関節の位置の安定を図る装置としての働きがあります.口を開けると,関節頭(あご)はまず関節窩内で回転し,さらに大きく開けると関節円板と共に前方にスライドします.正常な顎関節(口を閉じているとき)(偏へんい位)こと,咀そしゃく嚼(ものを噛かむこと)がしにくくなること,そして頭痛なども顎関節症に関係があります.顎関節の解剖円板外側翼突筋咬筋深部下顎頭(関節頭)関節円板後部組織耳孔関節窩q001-014_TMD_YB_huroku.indd 213/09/27 14:26誰がかかるか,わからない「顎関節症」(がくかんせつしょう)に要注意!翻訳:古谷野 潔/桑鶴利香/築山能大/松本浩志米国口腔顔面痛学会(The American Academy of Orofacial Pain)製作カ口腔顔面痛学会が作成したものです.アメリカ口腔関連するその他の障害などの分野において,教育・研や苦痛の緩和を目的とする歯科医師と関連の医療関係症に関する一般的な情報提供を目的としており,口腔科医師の診断の代わりに患者さんが利用することを意りません.,わからない! 「顎関節症」(がくかんせつしょう)に要注意!』は,許可を得て,「ザ・クインテッセンス」別冊 TMD YEAR BOOK 録として翻訳・製作された(原文タイトル『TMD』).香/築山能大/松本浩志(九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復分野)が担当した. 2013付録節症」(がくかんせつしょう)に要注意!社このパンフレットは,アメリカ口腔顔面痛学会(The American Academy of Orofacial Pain)が作成したものです.アメリカ口腔顔面痛学会は,口腔顔面痛と関連する障害などの分野において,教育・研究・治療の発展をとおし,痛みや苦痛の緩和を目的とする専門医療者の団体です.当パンフレットは,顎関節症に関する一般的な情報提供を目的としたもので,患者さんが病気を自分で診断するために利用することを意図して作成されたものではありません. 翻訳古谷野 潔/桑鶴利香/築山能大/松本浩志(九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座インプラント・義歯補綴学分野)誰がかかるか,わからない「顎関節症」(がくかんせつしょう)に要注意!13/10/04 13:32
元のページ