別冊 臨床家のための矯正YEAR BOOK2013
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140国内学会抄録臨床家のための矯正YEAR BOOK 20131期治療の基本コンセプトと適応症 乳歯列期・混合歯列期の患者を治療管理するにあたっては,初診時の分析結果をもとに現状を十分に把握し,永久歯列期における適正な咬合関係の確立,硬組織と口唇を中心とした顔貌軟組織の調和および咀嚼嚥下機能など口腔諸機能の改善1といった最終治療目標を見据え,患者の負担軽減にも配慮して治療計画を立案する.すなわち,最終治療目標を達成するには一段階治療が有効か,二段階治療で管理するのがより効果的かを判断することになる. 二段階治療の適否を判断するにあたっては,初診時年齢,歯齢,不正咬合の種類とそれを取りまく舌・口唇・咀嚼などの機能的環境,口腔内に対する患者の意識などさまざまな要因が関係するが,①1期治療により2期治療を回避できると判断した症例,②2期治療において抜歯あるいは多数歯抜去が回避できると判断した症例,③総治療期間の短縮が見込める症例,④咬合性外傷がみられる症例,⑤機能性および軽度骨格性下顎前突症,⑥機能性偏位咬合および片側性・両側性臼歯部交叉咬合,⑦歯性開咬症例(習癖の抑制を含む),⑧上下顎骨に対する若干の成長発育コントロールあるいは軌道修正が必要な症例,⑨永久歯の萌出方向の異第71回日本矯正歯科学会大会より事後抄録第一期治療の意義について考える第二期治療との関わりの中で示されたが,真に下顎の成長を刺激しているかどうかは疑問であった.下顎の成長発育に対する機能的顎矯正装置の効果についてProffi tは3,装置装着中一時的に成長が促進されるが,その後は成長速度がゆっくりとなる場合がほとんどで,下顎骨の最終的な大きさは治療しない場合とほぼ同じになるとしている. 一方,II級症例に対する二段階治療・早期介入の有効性について調べたランダム化比較試験4では,臨床で遭遇するさまざまなタイプのII級症例に普遍的に当てはまるものではないとしながらも,混合歯列期II級患者に対し思春期前に開始する二段階治療が永久歯列初期に開始する一段階治療より臨床的に効果があるとは言えず,抜歯や顎矯正手術といった複雑な治療の適用者数を減らすこともないだろうと述べている. 以上の背景から,現在新潟大学においては,①過大なオーバージェットによる口唇の閉鎖不全や歪みの軽減,②習癖などにより上下顎の生得的成長方向にずれがある場合その軌道修正,③乳臼歯早期脱落,歯胚の位置異常による上顎第一大臼歯の近心移動や捻転の修正を必要とするII級症例は,二段階治療の適応症と捉え,上顎または上下顎セクショナルアーチ,ヘッドギアあるいはII級ゴムを組み合わせ,治療期間を原則12か月~18か月と設定し,治療して常や萌出遅延への対処が必要な症例,に対しては原則1期治療を適用する.Ⅱ級症例に対する治療管理の変遷 1期治療の意味を考え論じるには,永久歯列期における治療結果を蓄積し再評価することが不可欠である.新潟大学では,フレンケル装置タイプIIによる1期治療を行った混合歯列期II級不正咬合114症例(男児59名,女児55名;平均年齢9歳9か月)を対象に,二段階治療のあり方について検討した2. その結果,1期治療により上下歯列の対咬関係がI級に変化した症例は27例(23.7%),2期治療を必要としなかった症例は1例(0.9%)であった.また,実際に2期治療を施行した症例の81.7%は抜歯による治療が必要で,1期治療,2期治療の平均動的治療期間は,それぞれ20.0か月,32.8か月とかなり長期化していた.これらの結果から,フレンケル装置に対し良好な反応を示す症例は限られ,arch length discrepancyをはじめとする種々の問題を改善させ,最終治療目標を達成するには2期治療で抜歯を適用する割合が高く,全体の治療期間も長期化する傾向が示された. 欧米では1980年代~90年代において機能的顎矯正装置が頻用され,下顎の成長が促進した成功例も数多く齋藤 功キーワード:1期治療のコンセプト,混合歯列期II級症例,治療転帰新潟大学大学院医歯学総合研究科 歯科矯正学分野連絡先:〒951‐8514 新潟県新潟市中央区学校町通り2‐5274 [1期治療の意義を再考する]

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