別冊 臨床家のための矯正YEAR BOOK2013
3/8

045臨床家のための矯正YEAR BOOK 2013はじめに 歯科矯正治療において顎関節症をともなう開咬症例の診断,治療および治療後の咬合の安定性を保つことは,たいへん難しいと思われる.とくに下顎頭の吸収をともなう場合,痛みや運動制限,咀嚼機能の低下にとどまらず,下顎骨の時計回りの回転により骨格性の開咬に進行すること(図1)や,矯正歯科治療に対する予後が不良であるとの報告は数多い1,2. 顎関節症の治療の原則としては,スプリント療法,薬物療法,理学療法などの非侵襲的な手法による原因の除去とされるが,咬合もしくは骨格的な変化の回復を目標とするなら,侵襲的な手法を行う必要がある3,4.開咬を治すための矯正歯科治療もその侵襲的アプローチの一部とされる. もちろん,治療の原則として疼痛などの症状からの回復後もしくはこれ以上の骨格的な変化がないことを確認し,矯正歯科治療を開始することが望ましい.しかし,その矯正歯科治療の開始時期については現実的なパラメータがないため,臨床家を悩ませることが多い.また,一般的に用いられるスプリント療法により下顎の後退感や開咬量が増え,以前の不正咬合より厳しい治療計画に直面することもある. そこで,本稿では歯科矯正用アンカースクリュー(以下,アンカースクリュー)を用いた顎間牽引により,歯科矯正用アンカースクリューを用いた顎間牽引による顎関節症をともなった開咬の改善鄭 朱玲Intermaxillary Traction Using Miniscrews for Open Bites Associated with Temporomandibular Joint DisorderChooryung J. Chung Department of Orthodontics, Gangnam Severance Dental Hospital, Yonsei Universityaddress:Department of Orthodontics, Gangnam Severance Dental hospital, 712 Eonjuro Gangnam-gu, Seoul, Korea 135-720顎関節症の症状をコントロールしながら咬合の改善を求める治療法のコンセプトを症例とともに紹介したい.症例11)検査および診断 患者は24歳の女性で,顎(咬筋)の痛みと最近かみ合わせが変わったことを主訴に来院した.以前はかみ合っていたものの,顎が痛くなってから最近の1年くらいで開咬になったとの既往があった.非常に発達した両側咬筋や咬筋の圧痛,開口時の痛みをともなう骨格性II級の前歯部開咬症例である(図2).パノラマエックス線写真とMRIより,下顎頭の吸収や関節円板の前方転位などの異常は認められなかった.ただし,開口時にわずかな開口制限が認められた(図3,4). 顎関節症の病変は関節円板,下顎頭を含む下顎窩内部の変化による関節性のものと,咀嚼筋を含む関節周囲の軟組織に起因する筋性のものの主に2つのカテゴリーに分類されるが,多くの場合,両方の症状を兼ね備える.この場合は症状が生じた位置と MRIより関節内の解剖学的問題がないことから,典型的な筋性病変であることが明らかであった.2)治療計画 咬筋の痛みを減じるため,薬物療法と開口運動な

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です