COLUMN⑦診療も経営も「真似る」ことからはじめる 英会話の勉強をしたくて書店で本を探していた時、シャドーイングという本があった。CDから流れる手本を聞きながら、重ねるように発声をして英会話の練習をする方法とのことだった。興味をもってやってみるとこれがなかなか難しい。自分の声で手本の声が聞こえなくなるし、そもそもスピードについていけない。しかし何度も繰り返しやっていると、確かにイントネーションやスピードの強弱にある一定のリズムを感じることができるようになってきた。これが会話の第一歩なんだと思った。同時に、自分が本当に小さな子どもであった頃、よく母親の口癖や友達の言葉遣いを真似していたことを思い出した。学習とは真似するところが原点なのだと今さらながらに回帰した。 今、日々の診療もすべて真似である。自分から発信するような新しい手法や材料を正式に作り出そうと思ったら、統計をとりながら仮説を実証しないといけない。時には着手前に倫理審査も必要となり、オリジナルの手法を生み出すのは容易ではない。そのため、世界の誰かが考案した、論文に書かれている手法を真似してやってみて、日本人の解剖学的特徴に合わせてアレンジし、さらにそれを誰よりも綺麗に行えるように努力する。そういう治療を日々目指している。学ぶことの原点は真似である。 歯科医院の経営もまた、真似るところから始まる。これまで多くの開業医たちと会って話をしてきた。そしてすばらしい臨床家も、すばらしい経営者も、皆、真似るのがとても上手い。それが一番の上達の道だとわかっている。真似るための能力も1つの立派な才能である。もちろん努力で伸ばせる部分もあるが、天性の部分もある。そして私が感じるに、すぐれた臨床家はすぐれた経営者であることが多い。これは学ぶための能力の源が「真似る」ことであるとするなら、同じ歯科医師が臨床も経営も同時に伸びることに違和感はない。またその逆に、臨床が伸びない者が経営も伸びなかったり、経営が伸びない者が臨床が伸びないこともよくある話だと思う。これはひとえに「真似る」ための情報不足、行動不足だと思う。今のこの情報社会であれば、ほんの少しのアクションで最新のトピックスにリーチできる。ぜひ良質な情報源につながっていてもらいたいと思う。 本章の実践事例からもわかるように、真似した結果、そこからまた新しい方法が生まれることもよくある。他の歯科医院の経験をもとに行動することでさらに新しいオリジナルが生まれてくれたらそれは進化といえるかもしれない。英会話をシャドーイングするように、まずは他の先生方のやったことをシャドーイングしてみることをお勧めしたい。荒井昌海200
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