感染対策マニュアル
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Chapter2 診療前における感染対策ルーティンワーク52高圧蒸気滅菌器が稼働すれば、滅菌できているのか? 高圧蒸気滅菌は、密閉された装置内で適切な温度と圧力の飽和水蒸気で加熱することにより微生物を死滅させます。滅菌にはチャンバー内の空気が飽和水蒸気とすべて置換することが重要で、器材全部に飽和水蒸気が到達しなければなりません。 これまで、多くの歯科医院で、滅菌バッグに封入した器材をチャンバー内に満杯にし、力任せに扉を閉め、設置時のままの設定条件で作動スイッチを押す、工程終了後に扉を開け、水気を含んだ滅菌バッグを取り出しているという話をよく耳にします。高圧蒸気滅菌器が稼働すれば“滅菌ができている”と思い込んでいる歯科医療従事者も少なくないと思います。毎日の診療開始前に各機器を稼働させる際に必ず確認すべきことがあります。ここでは、そのなかでも高圧蒸気滅菌器の稼働点検について示します。「滅菌」を保証するために必要な手順 滅菌は無菌性保証水準(SAL:Sterility Assurance Level)が国際的に10-6に設定されている確率的な概念であり、生存する微生物が100万分の1まで死滅させなければ滅菌が保証されるとは言えないとされています。そのため、限りなくゼロに近づけるためにも、すべての汚染器材において微生物を殺滅しなければならないとする世相が広まったことで、高圧蒸気滅菌や化学的滅菌をすれば“無菌の保証ができている”と思い込んでいる歯科医療従事者も少なくないと思います。 滅菌が完了した器材は、SALが10-6以下に達していることを証明しなければなりません。無菌性を判定する方法には、①生物学的インジケータ(Biological Indicator:BI)による培養試験結果を滅菌バリデーションに定められたパラメータと比較判定する方法と、②パラメトリックリリースによる方法があります。 RKIガイドラインでは、パラメトリックリリースによる方法が推奨されています。パラメトリックリリースとは、毎日の、毎回の滅菌条件が、高圧蒸気滅菌器の設置時の稼働性適格性確認(Performance Qualification:PQ)において妥当性確認(バリデーション)された滅菌条件に適合しているかを、物理的モニタリングである物理的インジケータ(Physical Indicator:PI)と化学的インジケータ(Chemical Indicator:CI)を用いて証明することです。汚染器材の再生処理では、適切な機器の選定とともに、毎日、毎回高圧蒸気滅菌器が正確に稼働していることが重要であり、毎日の診療前の稼働点検(物理的モニタリング)も適切な感染対策のための前準備の1つなのです(Chapter2 P.55参照)。 ちなみに、ドイツでは商業規制当局の調査においてこのパラメトリックリリースを証明するアプルーバル・ドキュメンテーション(承認文書化)の提示および提出が義務づけられています。近年では、デジタル化が進み、PCによる一元管理によってアプルーバル・ドキュメンテーションの作成管理が簡単になりました(Chapter2 P.57参照)。Introduction適切な感染対策のための前準備

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