ひとつではない、噛める総義歯の姿
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56ケースプレゼンテーション1.本法が目指す義歯の概念 故・矢﨑正方先生は、独自の理論で咀嚼運動器を作り上げ、また咬座印象法や無口蓋義歯など、歯科界に多くの業績を残し、発展に寄与した。そして現在は、この総義歯製作理論をご子息の矢﨑秀昭先生(以下、矢﨑氏)が引き継ぎ、正方先生の考えに種々の工夫を加えて臨床に応用している。その基本となる義歯製作概念は、「邪魔にならない機能的な義歯」であり、「患者が喜ぶ義歯」である。 近年では無歯顎者の高齢化が進み、高度顎堤吸収や咬合不安定な難症例患者が増加している。矢﨑氏は、長年にわたり臨床実践を積み重ね、複製義歯を作り最終義歯に至る方法を用いて難症例に立ち向かっており、製作する義歯すべてが上記の概念に則した義歯である。 筆者は、専門学校卒業直後から現在まで、矢﨑歯科医院の義歯関連の技工作業を担当している。数多くの異なる症例においても、日々の緊張感を保ち、専門学校で学んだ基本的な作業工程を基に製作している。2.本法における義歯の製作ステップ 本項では、筆者らによる義歯製作のステップを示す(表1,2)。 基本的な義歯製作手順としては、初診時に口腔内およびそれまでの義歯の使用状況などについて詳細な診査をした後、一次印象として既製トレーとアルギン酸塩印象材により概形印象採得する。 続いて、得られた模型上で作業模型の印象採得に使用する個人トレーの設計を行う(図1)。 そして個人トレーとモデリングコンパウンド、またはヘビーボディタイプのシリコーン印象材により筋圧形成を行った後に流動性の高いシリコーン印象材を使って作業模型の印象を採得する(図2)。この作業模型上にて咬合床を製作し、咬合採得・人工歯配列・咬座印象を行っていく。 最終印象として咬座印象採得を行う際の設計線は、模型上に完成義歯の床縁となると思われる位置より、0.2~0.5mm程度内側に外形線を設定する。咬座印象採得の際、床縁が過度に可動粘膜を圧迫せず、開口時等の可動粘膜の状態を的確に床縁に印記するためである。咬合床ワックスリム製作・咬合採得・人工歯選択・正中・口角ラインをワックスリムに印記・人工歯配列・試適・咬座印象採得・埋没・重合・研磨・義歯の完成・装着となる。 また、顎堤が著しく吸収し、咬合が不安定な難症例においては、まず使用中の義歯の複製義歯を製作する。それを治療用義歯として活用し、粘膜面と下顎位の調整を繰り返し行う。この治療用義歯の安定が得られたら、上下顎の複製義歯を固定し、粘膜調3「邪魔にならない」「機能的な」「患者が喜ぶ」義歯製作小林靖典

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