ひとつではない、噛める総義歯の姿
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10イントロダクション1.総義歯学の現状/限界と本別冊発刊の目的1)不思議な総義歯の世界 今回、スーパー歯科技工士とよばれる5名の達人たちが同一患者に対する総義歯製作を行った。彼らはそれぞれ講演やセミナーアシスタントなどを務める著名な歯科技工士であり、個々に異なる考えをもって総義歯の製作にあたっている。したがって、同一患者に対する総義歯ではあるが、その人工歯配列や形態はそれぞれ異なる結果となることはいうまでもない。 それにしても、世の中にはどうしてこんなにも多様な総義歯製作法があり、それぞれが受け入れられているのかが不思議である。読者からすれば、「いちばん成功率が高い方法はどれ?」「いちばん簡単な製作法はどれ?」「製作方法によって患者さんの使用満足度はどのように違うの?」「これらの方法の使い分けは?」「歯科大学で習った方法と違うような気がする」などといった疑問をもって当然である。 しかし残念ながら、現時点でこれらの疑問に対する正確な答えを得ることは難しい。なぜなら、それぞれ異なる技法で製作された、形態の異なる総義歯を装着しても、患者からは良い評価が得られるという不思議な現実があるからである。 そこで本書では、上述の達人たちによる総義歯の製作法や完成義歯の比較・検討に加え、古今40編あまりの臨床研究論文から、「義歯の製作法により患者満足度は変化するのか?」「義歯の患者満足に関連する因子は何か?」そして「質の高い総義歯を製作する必要性はどこにあるか?」といった疑問点について松丸悠一氏に論考していただいた。2)総義歯が若者たちに嫌われないために もし、今回参加した歯科技工士の全員が製作した義歯の中に神業を表現しているのであれば、その技法の中に隠された真実を知ることはきわめて難しい。それは、感性・感覚・感触といったいわゆる匠の技、Craftsmanshipとよばれる説明のできない独自の世界だからである。 しかし、現代の若き歯科技工士たちに技術を継承するためには、これらの技法が言葉で説明でき、なおかつ再現することが容易なものでなければならない。さもなければ、彼らの技術は伝承されることなく、もうすぐこの世から姿を消してしまうだろう。 ゆえに、本書の目的は3つある。ひとつは、腕が良いといわれる歯科技工士たちの技術を書き残すこと、そして2つ目は、彼らの技法を次世代に引き継ぐ準備をすること、そして3つ目は、質の良い義歯製作を行えば患者を幸せに導ける可能性が高まるこ不思議な総義歯の世界阿部二郎

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