別冊 日常臨床で必ず使える! 歯内療法克服の一手
6/8
291一縷(いちゐ)の望みと最後の砦2.私が考える歯内療法の診断の勘所3.私の診療環境 大学病院に紹介されてくる患者は数年間に渡り根管治療を受けていることも少なくなく,痛みや器質的異常が当該歯に由来するのか,先入観を捨てて考える必要がある.とくに痛みを有する場合,早期診断が難しいことも多く,非歯原性の異所性疼痛を疑う所見の有無,痛みの所見(自発痛,打診痛等)とは別に,器質的異常(病変や瘻孔,深いポケット等)所見が痛みを有する歯と合致するか診査を進めていく.他に歯周病や咬合性外傷,歯根破折等はないか,根尖性歯周炎があれば見落としの根管,う蝕,穿孔や解剖学的に清掃困難な部位等からの由来はないかを適宜顕微鏡,歯科用コーンビームCT(CBCT)等による十分な精査後,適切な根管治療を行う. 治療後も痛みが消失せず,かつ器質的異常が治癒しない場合,根尖孔外の感染,側枝,イスムスや根尖性歯根破折等の可能性を考えて外科的歯内療法も検討するが,器質的異常の治癒は認めるものの痛みが治癒しない場合は,非歯原性異所性疼痛の診断を得る場合もある. 設備面では顕微鏡,CBCT,Ni-Tiファイル,垂直加圧充填用機器や歯科用レーザー装置を有している.とくに滅菌面においては管理が徹底されており,ディスポーザブル器具(トレー,シリンジ,ニードル等)の使用,例外なくラバーダム防湿を行っている.さらに治療時間を長く取ることで十分な根管治療を可能としている.教育面においても,症例検討会,オペ検討会,論文抄読,術前オペカンファレンス,新人教育セミナー等充実している.図2 むし歯外来の診療環境.外科的歯内療法時に使用する手術室のものを含めて6台の顕微鏡,2種類の歯科用レーザー装置等を備えている.Point1 生活歯髄に戻すことは困難であるため,治療後に痛みが出て抜髄となる可能性を理解してもらったうえで歯髄保存を可及的に試みる.Point2 再治療の介入において技術的な限界を認識したうえで治療および治療しないことのリスクを説明する.疫学論文は予後の見通しを説明するうえで参考になる.そして,最終決定権は十分な情報を与えられた患者にある.Point3 再治療のリスクや予後の見通しを勘案し,どこを歯内療法の到達点とするのか相談する.日常に支障がない痛みや違和感のレベル,またどの程度の危険性を冒す価値があると感じるのかは,患者によってまったく違う.Point4 治療前,治療中,治療後に顕微鏡あるいはデジタルカメラにて動画や画像を記録し,患者に見せる.治療過程を共有し,自分の歯の状態を理解してもらうことは良好な信頼関係の構築に欠かせない.歯の保存のためのコンサルテーションの勘所
元のページ