無歯顎補綴の治療戦略_NoLink
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 前章では,無歯顎患者に対する,顎骨量や骨格性の不正を考慮に入れたさまざまな補綴方法の選択基準を提示した.一概に無歯顎患者といっても歯の欠損に至る理由はさまざまで,顎骨もそれに合わせて複雑な形態となることも多い.また,潜在的に骨格性不正咬合を有する患者も少なくないため,総義歯 口腔内に生じた欠損に対し,インプラント治療を希望する患者は,固定性補綴装置を希望することが多い.しかし,超高齢社会を迎えたわが国においては,1つの治療オプションとして,インプラントを併用したオーバーデンチャーを提示する機会が今後増加するものと考えられる. その理由として,高齢患者の場合,全身状態や心理的側面から,なるべく大規模な骨造成などの付加的処置を避け,低侵襲な治療が求められること,さらには治療期間の長期化や経済的制約などの理由から,できる限りシンプルかつ効果的なインプラント治療が優先されると考えられるためである.下顎2-IODはコンセンサスの得られた治療法であるだけではなく,いくつかの治療オプションを身につけておくことが重要となる. 昨今,インプラントオーバーデンチャー(以下,IOD)は無歯顎補綴の重要な治療オプションの1つとして認知されている.本章は,IODを効果的に用いるために必要な知識と設計原則を述べてみたい. 無歯顎症例に対するIODについては,維持・安定の増加による咀嚼能率や患者満足度の向上1,さらには顎堤吸収の抑制効果2など,これまで数多くの研究報告がなされている.とくに下顎無歯顎症例に対するIODの適用は,いまや欧米におけるスタンダードな治療法といっても過言ではない(図1). 一般に,無歯顎患者に対するインプラント治療では,歯の喪失による歯槽骨吸収に加え,義歯装着による顎堤吸収の影響などから,既存骨にインプラントを埋入し,固定性装置を選択した場合,埋入されたインプラントポジションと歯冠形態(上部構造)の三次元的位置関係が悪くなり,無理に前突させたよ図1a 70代の男性,術前の状態.このような少数残存歯を鉤歯とした部分床義歯装着患者は,IODの適応症となることが多い.152CHAPTER 121.患者に合わせた治療オプション2.IODの必要性

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