と考えられます. 妊娠性歯肉炎に対して,歯間乳頭部および辺縁歯肉が球状あるいは扁平状に増殖したものを,妊娠性エプーリスといいます.血管腫性の炎症性変化であり,出産後に自然消失する場合がほとんどですが,日常生活に支障がある場合は外科的に切除を行うこともあります.歯肉炎(妊娠性歯肉炎)は,一般診療と同様にプラークコントロールとプロフェッショナルケアの併用で改善されることがほとんどなので,口腔衛生指導は重要です(図7,8).3)歯周病 妊婦の口腔内は,妊娠中に分泌量が増加しているエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの影響を受けるとともに,妊娠中の食生活や嗜好の変化,ストレスの影響を受けやすくなります.歯肉炎と異なり,アタッチメントロスをともなう妊婦の歯周炎についてはとくに注意が必要です.妊婦が重度の歯周病に罹患していると,炎症性のサイトカインが子宮収縮物質の産生を促進し,胎盤の早期剥離から早産(37週未満)を起こしやすくするといわれています.炎症の程度によっては,歯周病原性細菌がそのまま血流を介して胎盤へ移行し,胎児の発育不全や低出生体重児出産(2,500g未満)などを引き起こす可能性があるとされています.詳細はChapter1を参考にしてください. 筆者(宗田)の経験では,妊娠によって歯周病に罹患したのではなく,妊娠前より歯周病に罹患していた患者が,妊娠したことで歯周ポケットが深くなったケースがほとんどです.そのため,歯周病の治療は妊婦自身と胎児のためにも必要であることを説明しましょう.4)智歯周囲炎 口腔内の第二大臼歯よりさらに奥に存在する第三大臼歯は清掃不良となりやすく,そのうえ妊婦では女性ホルモンの影響による歯肉腫脹によって智歯周囲炎が起こりやすくなります.通常では,抗菌薬の投与や抜歯で対処しますが,妊娠中では投薬や外科処置に制限があるため,安全性に十分配慮したうえで適切な消炎処置を図る必要があります.外科処置など負担が大きい処置を要すると思われる場合は,必ず産科医に照会することが重要です.半埋伏状態の第三大臼歯がある妊婦は,妊娠中期から後期にかPart 1 マタニティ期に歯科ができること26図7 患者の口腔内に対する意識は高かったが,叢生のため従来のブラッシング方法では歯肉炎が予防できていないことを指導する必要がある.(写真提供:氷川デンタルクリニック,原聰先生)図8 産婦人科から歯周病治療の依頼があった症例.妊娠を機に口腔内環境改善のための動機づけを行うきっかけとなった.(写真提供:氷川デンタルクリニック,原聰先生)妊娠性歯肉炎歯肉からの自然出血
元のページ ../index.html#1