天然歯にこだわるGPの総合歯科臨床
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当院には,開業当初からさまざまな年齢層の患者が来院される.患者の主訴も十人十色である.多様な主訴の解決に日々奔走するうちに,自分自身に不足している知識や技術に打ちのめされることは,いまだにある.しかし,一つひとつ問題を解決に導き,患者の口腔内を総合的に治療することに大きな価値を感じている.今回,『天然歯にこだわるGPの総合歯科臨床』を上梓するにあたり初めに訴えたいことは『1本の歯を大切にする』である.いかにインプラント治療が隆盛を極めても,天然歯の重要性に言及していきたい.そこで,第1章においては,1本の天然歯を可及的に永続させるために当院において取り組んでいる『歯内療法,歯根端切除術,再植と移植』について述べてみた.保存処置の中でも歯内療法の成否が歯の予知性を大きく左右することに異論はないだろう.しかし,解剖学的に歯内療法が必ずしも成功するとは限らず,歯根端切除術もしくは再植術や歯の移植術に頼らざるを得ない場合も存在する.咬合に参与していない智歯を有効活用することも,患者の利益につながると考えている.第2,3章においては,矯正治療に関して述べてみた.まずは,第2章において成人期における歯列不正の発生を限りなく予防するために,幼少期からも歯列を育成することの重要性を理解していただきたい.第3章においては,全顎矯正治療であるが,矯正専門医のみならず筆者のような一般歯科臨床医も,可能な範疇で全顎矯正治療に着手していただきたい.患者の口腔内を一単位で診断し,治療計画を立案するうえで,矯正治療の知識と技術がその予後を大きく左右すると考えている.審美的な改善のみならず,口腔機能を少しでも改善するのであれば,矯正治療は,『総合歯科臨床』の中では欠くことのできない治療方法と感じている.第4章においては,歯周治療と矯正治療の関係について述べてみた.歯周治療を成功に導くためには,歯列不正の是正も含めて,歯の周囲を取り巻く環境が少しでも整うことが重要であると考えている.歯は歯槽骨という限られたハウジングの中に存在しており,歯列不正によってその環境が侵されていれば,歯周再生療法も困難な状態になる.よって,歯周治療と矯正治療の両者を施術することにより,大きな成果を上げることが可能となるだろう.また,近年取り組んでいるMIな歯周再生療法についても述べた.従来,拡張型のフラップにおいて多くの患者の歯周再生療法に取り組んできた.しかし,必要最小限の侵襲にて施術することが患者の利益につながることを強く感じている.さまざまなMI治療が存在するが,その中でも当院において対応している術式を紹介した.第5章においては,インプラント治療について述べてみた.インプラント治療において重要なことの一つに,術後のインプラント周囲組織の安定性があるだろう.硬組織のみならず軟組織も重要と考えている.インプラント治療は,患者にとって経費的にも高負担であり,その予知性を高めることは,患者との信頼関係を構築するうえでは非常に重要な項目であることは言うまでもない.インプラント治療においては,歯の欠損の存在により口腔環境は大きく様変わりしていることだろう.そこに,歯列不正や,歯周病学的問題が発生していれば,治療計画は複雑化し,治療期間も長期に至ることも多い.より,効率的にしかも大きな成果を上げるには,われわれ臨床家は何をすべきなのであろうか.第6章においては,舌房の重要性に関して述べてみた.不定愁訴を予防するうえで咬合も含めてさまざまな要因が存在する.その中でも,見落とされがちな舌房の重要性に関して考えていただきたい.歯科治療は,一口腔内の中で多くの治療方法が存在する.さまざまな術式や知識を駆使して,今後も患者の利益に繋がる日常臨床を目指し,今後も取り組んでいきたい.2021年6月吉日金成雅彦はじめに

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