が、デジタル印象採得の際にはより起こりやすいと考えられる。 IOSのためのフィニッシュラインの位置は、ある意味答えが出ているため素直に前述のとおり歯肉縁から縁上に設定することが望ましい。 しかしながら、臨床はそれほど単純ではないことは読者諸氏もご理解いただいているのではなかろうか。日常臨床においてフィニッシュラインの位置は、隣接面う蝕が歯肉縁下に達している場合や、旧修復・補綴装置を除去し再治療を行わなければならない場合にほぼ歯肉縁下となってしまう。ともすれば、フィニッシュラインが歯肉縁下になってしまう場合のほうが多いと思ってしまうこともある。 このような場合に筆者は、可及的シンプルに考え対応している。歯肉が障害となる場合には、“切除できる場合は切除する”、“圧排・排除できる場合は圧排・排除する”、“フィニッシュラインを歯冠側へ移動できる場合は移動する”といった手法で対応している。以上の方法で対応できない場合には、練成印象材で従来の印象採得を行っている。 まず、電気メスやレーザーで歯肉切除を行う手法は、もっとも確実にフィニッシュラインを明示できる手法と考えている(図4-10)。しかしながら、臼歯部で付着歯肉が厚い症例には適しているが、前歯部などの審美領域に関しては歯肉退縮を起こし審美障害の要因ともなり得るので注意すべきである。 歯肉を圧排・排除する場合は、理想としてプロビジョナルレストレーションにより歯肉をコントロールし、プラークコントロールを適切に行うことで印象採得が容易となる(図4-11)。また圧排糸や圧排ペースト、止血剤を併用することでフィニッシュラインの明示が可能となる(図4-12)。注意点としては、止血剤の中には接着時にレジンセメントと反応しセメントが黒変してしまう製品もあることが挙げられる。 さらに、コンポジットレジン(以下、CR)を利用して、フィニッシュラインの位置を歯冠側へ移動する「ビルドアップテクニック」という方法も存在する。本法は各種形成を行った際に歯肉縁下う蝕を除去するなどしてフィニッシュラインが歯肉縁下に位置した場合に、マトリックスバンドを装着してウェッジで固定することで歯肉や歯肉溝浸出液などを防御してCRを充填するテクニックである。その後に窩洞などを再形成もしくは修正することで、歯肉縁上のCRをフィニッシュラインとする(図4-13)。この方法の起源は古く、約30年前に発売された初代CERECの頃から基本概念は存在していた。 さて、歯肉圧排とビルドアップテクニックは、歯肉縁下何mmまでがその適応となるのであろうか。もし圧排ペーストなどの使用により確実な歯肉圧排を行え、その状態が印象採得を行っている間に確保49図4-10a 電気メスを用いて歯肉を切除すれば、フィニッシュラインを明瞭にすることができる。しかし、歯肉退縮などの問題から臼歯部において適応しやすい方法といえる。図4-10b バーチャルモデルにおいても明瞭なフィニッシュラインを認めることができる。図4-10c 術後1週間が経過し、歯肉に多少の炎症が残っているが問題は認めない。IOSによるデジタル印象採得とその実際電気メスによる歯肉切除
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