図63c 診断用ワックスアップから人工歯排列および試適。前歯と口唇との調和を見る。図63a、b フェイスボウトランスファー(a)から診断用ワックスアップを行う(b)。ab図63d、e 完成したコーヌスタイプのテンポラリーデンチャー。de①欠損部位と受圧-加圧要素の関係 前方遊離端欠損。臼歯には咬合支持があるが、上顎前歯が欠損し、対顎の下顎前歯は歯がすべてそろっていて受圧-加圧要素のバランスが非常に悪い。②咬合支持数 咬合支持数は4。もし、この歯列で下顎の咬合支持を担う4歯₇、₅、₆₇が喪失していたら、最高レベルの難症例といわれる前後的すれ違い咬合になっていた。そうならぬよう、今後これらの歯を守ることもたいへん重要である。③残存歯の対向関係 上顎は前歯が欠損し、下顎はほぼすべての歯が残存しているので、下顎前歯が上顎義歯を突き上げる。④アンテリアガイダンスの有無・状況 なし。⑤リスク因子 予後において歯を喪失するリスクよりも、咀嚼時に下顎前歯の突き上げにより義歯がすぐに外れてしまうというクレームが出る可能性が高い。治療方針 この症例はケネディの分類の4級に属するが、アイヒナーの分類ではB1、咬合支持数4で、しかも咬合支持が左右均等に配置されている。これだけで判断するとさほど難しくはない印象を受けるが、実際には前方遊離端欠損という相当な難症例である。 前方遊離端義歯は前歯で咬合するとフルクラムラインを軸にして回転し、後方の維持装置が外れてしまう。前方遊離端義歯の患者の訴えは一様で、「前歯で噛むと義歯がすぐに外れてしまう」というものである。 そのため、維持装置を支点(フルクラムライン)からなるべく遠く(遠心)に設計する。維持装置の設計も重要であり、本症例では回転力に対しもっとも有効に抵抗するコーヌスクローネを選択した。コーヌスクローネは全周平行な面を有しているため、義歯に回転力がかかっても平行な面が抵抗して上下方向にしか動かない。前方遊離端欠損にはコーヌス義歯が非常に有効である。169■ テンポラリーデンチャー製作Chapter 6 症例集 ―特にハイリスクケースを中心に―
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