図10 中川の歯式による前掲の症例の分析・診断。c)残存歯の対向関係 95〜102ページの「4)咬合:残存歯の対向関係を見る」で詳しく解説するが、患者は残存歯がある部位で咀嚼する。その際に、その部位にどの程度の咬合力がかかるのかを歯式から読み取り、過大な力がかかると予測される場合には支台歯の連結固定も考慮に入れる。a)欠損部位と受圧-加圧要素の関係 欠損部位は両側遊離端。加圧要素は上顎で、ほぼ全歯がそろっている。受圧要素は下顎臼歯で第一小臼歯以外すべて欠損している。ゆえに、圧倒的に下顎が不利になっている。b)咬合支持の歯数と部位 臼歯咬合支持数は2と少なく、しかもその咬合支持を担う部位に(クラスプがかかるため)義歯の咬合力が加わることがわかる。c)残存歯の対向関係 残存歯の対向関係は前歯部においては左側犬歯を除いてすべて存在している。臼歯は両側第一小臼歯のみが咬合している。そのために下顎前歯による上顎前歯への突き上げが起こる可能性が見て取れる。d)アンテリアガイダンスの有無・状況 ₃が欠損しているため左側方運動がグループファンクションにならざるを得ない。その結果、左側第一小臼歯に過大な力がかかることが予想できる。e)リスク因子 咬合支持を担う下顎両側第一小臼歯には義歯のクラスプも設置され、過大な力がかかる。しかも₄は₃が喪失しているためガイドの役割も担わざるを得ない。その結果、₄にはより過大な力がかかってしまうことになる。前歯部については、₄、₄が保存できれば下顎前歯の上顎への突き上げを予防できる。診断d)アンテリアガイダンスの有無・状況(診断用模型とともに考える) 適正なアンテリアガイダンスを獲得できれば、臼歯への側方応力を軽減することが可能になる。また、アンテリアガイダンスを獲得できなければ臼歯への負担が増えてしまうので、その力に対抗できるような支台歯の強化(連結固定など)を考えた義歯設計が必要となる。このように、アンテリアガイダンスの有無が義歯設計に大きく影響する。e)リスク因子 例えば臼歯の咬合支持が1ヵ所のみの場合にはそこに力が集中し、将来的に支台歯の破折や動揺のリスクが生じる。このように、支台歯としての条件が悪い歯を特定し、設計時にそのリスク因子を回避することが重要である。57■ 中川の歯式を用いた症例分析・診断することはできない。 しかし、各症例での永久歯列完成から現在に至るまでの経過と時間をたどり、現在の残存歯の咬合支持数から、ある程度の安定度は予測可能と思われる。例えば、臼歯8歯欠損で咬合支持数が4の場合、その患者の年齢が40歳であれば予後はかなりリスキーであるといえるが、70歳で同じ欠損であればリスクの程度は下がる。時間軸は重要な要素である。この症例は₄、₄への力のコントロールが最大のポイントChapter 3 症例の分析と診断基準
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