● ケース情報患者 12歳、女性主訴 出っ歯。下の歯が見えない。診断および治療経過 アングルII級1類上顎前突、過蓋咬合と診断し、オーバージェットならびに口唇の突出感を改善するため、半年間の機能的矯正装置使用後、マルチブラケット装置による非抜歯治療を行った。装置の装着期間は1年5ヵ月であった。 問題発生状況 動的治療により、適正な前歯被蓋ならびに咬頭嵌これは困った!!chapter4歯および歯周組織の問題症例に学ぶcase 歯根吸収は矯正治療に付随する発現頻度の高い医原性疾患とされている。その発症を事前に予測することは難しく、非可逆的である。Kechamをはじめ、古くから多くの臨床家がこの問題に関心を寄せ、さまざまな角度からその要因を解明しようとしている。Breznaikらによるレビューでは、これらの膨大な報告を体系的に整理しているが、その絶対的な因子を特定するに至ってはいない。 Malmgrenは歯根吸収の程度を4段階に区分している(13g)。小坂らはその分類に従い、本格矯正治療を行った動的治療の終了患者737名の上顎前歯部について、パノラマエックス線およびデンタルエックス線写真をもとに調査した。その結果2mm以下の吸収を認めた割70合が12.3%、歯根長の1/3以下の吸収を認めた割合が5.6%、1/3以上の吸収を認めた割合が1.4%だったと報告している。 治療開始前に矯正治療には歯根吸収のリスクがともなうことを説明する必要がある。治療中、エックス線写真撮影により吸収を認めた場合は、治療メカニクスの変更や中断も検討せざるを得ない。患者は自覚症状を認めることが少なく、他院にてエックス線写真撮影を行った際、指摘されトラブルになることもある。吸収を認めた際には、患者(保護者を含む)に予知性や予後について十分な説明が必要となってくる。法律家からのアドバイスをcheck! 77ページ予防するためには……合を獲得したが、上顎前歯部に著しい歯根吸収を認めた。治療前後の上顎前歯後退量は5mmであった。● 問題発生後にとった対応 初診時より短根傾向を認めており、治療途中の定期デンタルエックス線写真撮影により歯根吸収を呈していることを認識(Malmgrenの分類3度)。患者ならびに保護者には説明を重ね、治療期間の短縮ならびに上顎前歯歯根へのトルク効果を控えるため、角線ワイヤーのサイズを最低限にて動的治療完了とした。 解説:小坂竜也13矯正治療により上顎前歯に歯根吸収を認めた
元のページ ../index.html#2