b9a図3a, b 「歯内歯」とは,エナメル質が形成される際に,内エナメル上皮の一部が歯乳頭内に向かって深く侵入増殖した形態異常で,「陥入歯」(dens invaginatus)ともよばれる.デンタルエックス線写真で観察すると,歯の内部に歯があるような状態で,人形の中に人形を組み入れたロシアの民芸品である「マトリョーシカ」を思い起こさせる.*a:戸田善久,ほか.口腔の発生と組織.東京:南山堂,1991より引用・改変表1 歯内歯の出現率報告.研究者AtkinsonBoyneShaferAmosGrahnen et al.Ulmansky et al.Poyton et al.ThomasGotoh et al.吉岡ら 1-1 「診断ミス」が失敗原因—歯内歯の歯髄の壊死領域の見落としCHAPTER 1 治療失敗の3大原因エナメル質内エナメル上皮外エナメル上皮歯小嚢の細胞一方,歯内歯(TypeⅠ〜Ⅲ)と診断しても,適切な対策・治療法がわからず,悲劇的な結果を招くことにもなる(図4).電気歯髄診断(+)でも,患歯全体が生活状態であるかは不明で,多くの歯内歯(Type Ⅲ)では陥入歯根管の歯髄のみが壊死していることが多い.大切なことは,根尖周囲組織への病原性刺激を排除・遮断して(原因根管歯乳頭細胞象■芽細胞象■前質象■質歯髄ヘルトビッヒ上皮■発表年調査歯数歯内歯の出現率1943195219531955195919641966197419791995500100025421000302050050001886766137210%0.04%1.3%5.1%2.7%2.1%0.25%7.7%9.7%2.8%を見極めること),生体に有利な環境の永続化を図ることである(症例2,3)歯内歯診断ミスが起きる代表的な臨床例として「歯内歯」を紹介する(症例1).歯内歯はエナメル質が形成される際に稀に発生する形態異常歯で,歯の中にもう1組の歯が含まれるという陥入歯(dens invaginatus)である(図3)1.日常臨床で高頻度に確認されるケースではなく,抜去歯やエックス線写真での調査によると,日本人では3%程度の出現率と報告されている(表1).専門医にとっても珍しい症例とされている.そのため一般歯科医師がその歯の実態を知る機会も少なく,臨床で遭遇すると見過ごすことや診断ミスすることもしばしばである.
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