Ⅲ級ゴムの効果効果① 「上顎歯列の近心移動」と,「下顎歯列の遠心移動」による臼歯関係の改善.効果② 「咬合平面が後ろ下がり(Flat)になること」による臼歯関係の改善.効果③ 上顎臼歯挺出による「下顎のクロックワイズローテーション」による骨格の改善(B点の後退). 図94 Ⅲ級症例のポイント.図95 Ⅲ級ゴムの作用. 外科矯正一般矯正ANB角−4°以下ハイアングルで開咬傾向オトガイの突出感が強いANB角−4°より大きいバイトの深いローアングル症例オトガイの突出感が著明でない Ⅲ級症例のポイントは,「外科」「非外科」の判断です.一般的にANB角が-4°以下の症例,オトガイの突出感が顕著な症例,ハイアングルで開咬傾向があるような症例は外科矯正が望ましい場合が多いです(図94).しかし,Ⅲ級症例でも治療後のANB角を-1°〜-2°以上にし,そのANB角に適した前歯の位置を獲得することができるような場合は,マルチブラケット治療のみで,プロファイルを良好にすることができる症例が多く存在します. Ⅲ級のマルチブラケット治療では,「Ⅲ級ゴム」を用います.Ⅲ級ゴムをかけると,上顎臼歯部には「挺出力」と「近心への力」がかかり,下顎前歯部には「挺出力」と「遠心への力」がかかります(図95).このことによって「上顎歯列の近心移動」「下顎歯列の遠心移動」「咬合平面の平坦化(咬合面が後ろ下がりになること)(p.80参照)」が起こり,臼歯関係が改善します. 上顎大臼歯を挺出させることができれば,下顎のクロックワイズローテーションが生じてB点が後退し,骨格を改善することもできます.しかし,大臼歯を挺出させたいdeep biteケースの多くはローアングル症例であり,強い咬合力が抵抗するため,上顎大臼歯を挺出させることが難しいことが多いです(特に成長が終了している成人症例は困難といわれています1).逆に,ハイアングルで開咬傾向のある症例では,Ⅲ級ゴムの使用が上顎大臼歯の挺出を招き,開咬をひどくすることにつながるので,外科矯正の適応となることが多いのです.このあたりに,Ⅲ級治療でANB角を増加させることの難しさがあるといえます.199Ⅲ級マルチブラケット治療のメカニクス1治療7「Ⅲ級症例」のマルチブラケット
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