ABCbFIG 16b 中心結節が折れたことにより,内部にまで伸びている歯髄組織が露髄する.その結果,口腔内のバクテリアが歯髄内に侵入し,歯髄に炎症を惹起する.しかし,歯髄はただちに全部性の歯髄壊死になるわけではなく,壊死は歯冠側から徐々に根尖側へ進行すると考えられる.発見が早ければ,根管内には死んだ歯髄組織と生きた歯髄組織が両在し,その移行部に免疫細胞が集中した白血球帯が存在すると思われる.白血球の一員であるマクロファージが放出したサイトカインが組織内を移動して根尖孔外に到達すると,破骨細胞を活性化して骨破壊が促進される.その結果,エックス線写真で骨透過像として写る根尖病変が生じることになる.aFIG 16a 中心結節の破折が原因で,歯髄感染が進行し,根尖病変が生じた状態を示す模式図. 中心結節が破折して細菌が進入したことで,歯冠側の歯髄に歯髄壊死が生じている(A).しかし,歯根側では歯髄に炎症性の変化はあるものの生きている歯髄組織が存在する(B).AとBとの界面部で産生されたサイトカインは根尖部へ移動し,破骨細胞を活性化して骨吸収を惹起する(C).歯内感染の病因論 歯髄炎と根尖性歯周炎(根尖病変)の発症メカニズム CHAPTER 1019破壊が根尖病変形成に強く関与していることを想像させる(FIG 16).すなわち,歯髄炎の初期では歯髄局所で生じた炎症反応により生産されたサイトカイン(たとえばIL-1)が根尖部へ移動し,破骨細胞を活性化することで骨破壊が生じる可能性を示唆している(FIG 16).したがって,根尖の透過像は必ずしも全部性歯髄壊死を意味しない.硬化性骨炎 上記の事柄に付随して,歯髄炎の診断(どの歯が歯髄炎による痛みを生じているかの鑑別診断)として,エックス線写真による硬化性骨炎(condensing osteitis)が役立つことがある19~22.硬化性骨炎は,根尖部のわずかな透過像を囲むように根尖周囲に限局した骨の硬化像を示す(FIG 5c,FIG 7b, g,FIG 8g, h参照).この像は,歯髄に慢性炎症が存在し,炎症が根尖孔外に波及していることを示唆している.可逆性歯髄炎であれ不可逆性歯髄炎であれ,根尖病変(骨吸収)の形成メカニズム失活歯髄白血球帯マクロファージサイトカイン破骨細胞バクテリア生活歯髄根尖病変(骨透過像)
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