TQ別冊骨補填材料&メンブレンYB2023/2024
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 歯を喪失すると,それに伴う束状骨の吸収が顎堤の吸収を引き起こす1).その喪失率は,頬舌的には約3.87mm,垂直的には唇頬側中央部で約1.67mmと報告されており2),欧米人と比べて唇頬側歯槽骨の薄いわれわれ日本人では3),さらに大きな吸収が引き起こされることが想定される.そのような条件下でインプラント治療を行う場合,喪失した顎堤の幅や高さを増大するための水平・垂直的な骨造成が必要となる. 骨造成の手法として,オンレーグラフトやディストラクションなどさまざまな方法が臨床応用されているが,中でもguided bone regeneration:GBR(骨再生誘導)法は汎用性が高く,もっとも多くの臨床医に用いられている手法であろう.GBR法はguided tis-sue regeneration:GTR(組織再生誘導)法の原理を骨組織のみに適応した手法であり,メンブレンで骨欠損部を被覆することにより,上皮細胞ならびに結合組織細胞の侵入を防ぎ,骨芽細胞による骨新生の時間的猶予を獲得し,骨再生の場を提供することで骨造成を行う手法である.メンブレンには,生体親和性,細胞遮断性,組織統合性,スペースメイキング能力,操作性の高さといった特性4,5)が求められる.多くの場合,スペースメイキングとメンブレンの保持のため,自家骨あるいは種々の骨補填材料の移植が行われるとともに,骨造成において移植骨の有する骨誘導能あるいは骨伝導能が利用される.現在骨造成においてもっとも一般的に用いられているGBR法であるが,先人たちのさまざまな努力の下成熟した手法として確立してきた. 骨再生に関する考え方は,医科領域においてBergが立てた仮説から始まるとされている.Bergは1947年,脊椎変性疾患に対する治療法の一つである後方固定術に際し,軟組織が存在すると骨癒合が阻害される可能性があるため,それを排除してスペースを確保することで確実に骨再生が起こせるのではないかと考えた6,7).これがいわゆる骨再生に関する仮説であり,これを機に医科領域において組織再生というものが発展していく.組織再生において大きな役割を果たしたのが,セルロースアセテートおよびニトロセルロースの混合物から成るミリポアフィルターと呼ばれる遮断膜である.これは1954年,微生物の培養のためにPrehnらによって開発されたものであった8)が,CampbellとBassettはそれを神経組織の再生のために利用した9).この遮断膜を用いた初めての組織再生を経て,Hurleyらは椎骨を10),Bassettらは腸骨を対象とした骨再生を成功させ11),1960年代に入るとBoyneらによ初めて歯科領域における組織再生として,一連の歯槽骨再生が行われた12~14).これは最初のGBR法ともいえる. このような組織再生の流れの中で1976年,Melcherによって歯周組織再生に関する仮説15)が発表された.これは,「歯周外科治療後の歯根面に,最初に付着・増殖してくる細胞がその後の治癒形態を決める.上皮細胞,結合組織由来細胞,骨由来細胞および歯根膜由来細胞のうち,歯根膜由来細胞が歯根表面に到達・増殖した場合にのみ歯周組織再生は起こる」というものである.その仮説に基づき1982年,Nymanらが前述のミリポアフィルターを用いて,GTR法の最初の臨床例を報告した16).その後医科領域で応用され始めた延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)メンブレンが,1984年より歯科領域でも用いられるようになり,すぐにGTR法におけるバリアメンブレンの主流となった17). GTR法は歯周組織すべてを対象とする手法であったが,それを基に,Nymanらはその概念を骨のみに応用した,臨床上きわめて重要な骨造成法としてGBR法を考案し,ラットやサルを用いた動物実験18),次いで1990年には臨床報告19)を世界に先駆けて行った. GBR法はGTR法と異なり,再生のターゲットとする組織が骨のみであるため,比較的容易に遮断膜による軟組織の排除とスペースメイキングを行い得る.遮断膜としては,GTR法におけるゴールドスタンダードであったePTFEメンブレンが用いられ,GTR法と同様にGBR法に用いる遮断膜のゴールドスタンダードとなった.1990年代半ば頃からは,ePTFEメはじめに18 巻頭企画2

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