はじめに 無歯顎患者の機能回復において、総義歯と比較してインプラント応用の有効性については多くの報告1~3があり、筆者自身も日常臨床の中でそれを経験してきた。インプラントを応用した無歯顎患者の治療法には、大きく分けて、固定性のボーンアンカードフルブリッジと可撤性のインプラント支持オーバーデンチャー(以下IOD)があるが、その優位性に関しては今なお議論が続いている。 下顎の治療ではいずれの方法であっても高いインプラント残存率が報告されているが、上顎においては使用インプラントの本数が少なく、インプラント体を連結しないIODは残存率が低いという報告もある4。補綴のトラブルでは、IODのほうが固定性のボーンアンカードフルブリッジよりも多いという報告もあるが5、これは骨量が少なくボーンアンカードフルブリッジができない場合に用いられるため失敗率が高く、補綴的合併症も多くなるからだろう6、7。一方、適切に設計されたIODは残存率が高く、患者満足度も高いという報告もある8~10。 本稿では、当院開設時から約20年にわたって治療を行った無歯顎インプラント治療について、インプラントの残存率と補綴装置のトラブルについて考察し、現時点での設計の考え方、治療計画、補綴法、そして「ボーンアンカードフルブリッジ vs IOD」について考えてみたい。 可撤式IOD 下顎のIODは、2本のインプラントを埋入することで従来の下顎の全部床義歯と比較して患者満足度は快適性、咀嚼力、咀嚼能力を含め、QOL向上にすぐれていることが示されている11~13。難症例の全部床義歯患者に対し前方に2本のインプラントを使用し、以前はボールアタッチメントを応用してきたが(図1)、近年はより汎用性の高いロケーターアタッチメントを用いている(図2)。 図3の症例は、経済的な理由から2本のインプラントを小臼歯部に埋入し、より強固な咬合支持と義歯の維持を求めたが、1年ほど経過したところでインプラント体ケースであった。366ケースがボーンアンカードフルブリッジであり、コーヌスタイプの術者可撤式IODが6ケース、上顎の患者可撤式IODが3ケース、下顎の患者可撤式IODが10ケースであった。コーヌスタイプの術者可撤式IODは、AGC冠を用いて内冠2°のテーパーで作製しており患者自身では取り外しができないため、むしろボーンアンカードフルブリッジの括りに入るとすると、可撤式のIODは上下で13ケース、全体の3.4%であり、当院ではその割合は非常に少なかった。 インプラントの残存率は、2005~2015年に施術した268ケースについて調査した。5年以上の経過観察ができていたのは209ケース、1,083本のインプラント体であり、6ケースに8本のインプラント体の喪失があった。よってインプラントの5年残存率は、患者単位で97.1%、インプラント単位で99.3%であった。54略歴1985年 東京歯科大学卒業1988年 白鳥歯科医院開業2003年 白鳥歯科インプラントセンター開業2004年 東京歯科大学大学院歯学研究科(病理学)修了 日本口腔インプラント学会専門医、九州大学臨床教授、OJ常任理事無歯顎患者のインプラント治療を長期経過から考える20年間の症例の概要 当院において、開設当初2004年7月~2022年6月までの18年間で行った無歯顎患者のインプラント治療は385白鳥清人Kiyoto Shiratori静岡県開業シンポジウム2
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