ライフステージ別考慮事項 患者のライフステージを以下の5段階に分け、それぞれについて考察する。①小児期・思春期(~10代後半まで):成長期であるため、 はじめに ブローネマルクがチタンインプラントを歯科治療に応用したことで、歯科界は大きな変化・発展を遂げた。インプラント治療の普及により、QOLが改善しその恩恵を受けた患者が多く存在することは紛れもない事実であり、「インプラントは健康長寿に大きく寄与している」と言っても過言ではない。 その一方で、この半世紀の間にインプラント治療の問題点も明らかになってきた。世界的にも高齢者の割合が増加傾向にある中、日本は世界一の長寿国であり、2021年の9月15日に発表された人口推計によると、総人口(1億2,522万人)における65歳以上の割合は29.1%(3,640万人)、2020年からの1年間で約22万人も増加している1。また、2025年には高齢者(65歳以上)の5人に1人が認知症を患っていると言われている。この超高齢社会の日本において、患者の口腔内に埋入されたインプラントが経年的にどのような変化を遂げ、また患者が認知症を発症したり、要介護状態になったりした場合に、どのようなことが問題となってくるのかについても整理し対応していかなければならないという新たな局面を迎えている。 そこで本稿では、患者のライフステージを鑑み、それぞれの患者の人生に寄り添ったインプラント治療を行うには何を優先的に考えなければならないのか、またその治療計画の立案における重要なポイントなどを整理してみたい。40略歴1992年 日本歯科歯科大学卒業、九州大学歯学部歯科補綴学第一教室勤務1994年 ゲン歯科クリニック勤務1998年 歯科・林美穂医院開業 Women Dentists Club(WDC)名誉会長、JUC、日本顎咬合学会常任理事・認定医、 日本臨床歯周病学会認定医、IPOI学会指導医、WCOI評議員、日本審美歯科協会、 OJ常任理事インプラント治療は回避すべきである②青年期・成熟期(20歳頃~40歳頃):とくに審美面への配慮が必要である③中年期・壮年期・更年期(40歳頃~50歳代後半):積極的な治療とメインテナンスの徹底、再介入を見越した治療戦略④老年期(60歳頃~75歳頃):個人差が大きい、要介護を見越した治療計画の立案⑤長寿期(75歳頃~):終末期を見据えた治療計画の立案、低侵襲な治療、短期間での治療青年期・成熟期におけるインプラント治療(図1) 人生100年時代におけるこの時期は、残された人生のほうが長いともいえる。患者の審美的な要求も高い時期であるため、審美領域でのインプラント治療は慎重に行う必要がある。近年では、インプラントと天然歯が共存する場合、経年的に天然歯とインプラント間で位置的なズレが生じたり2、インプラントの近心にオープンコンタクトが生じたりする現象が報告されており3、筆者もそのようなケースを多く経験している。以上のことから、この時期における審美領域でのインプラント治療はできるだけ避け、安易に抜歯をせず天然歯を残す努力をすべきである。インプラント治療を行う場合でも経年的に起患者の人生に寄り添ったインプラント治療-我々が今考えるべき課題-林 美穂Miho Hayashi福岡県開業シンポジウム1
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