「無理しない」「無駄にしない」矯正歯科治療13の視点と実践例
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11視点と実践155▪ 正中一致にこだわりすぎる無理な治療は,患者の利益にならない矯正歯科治療では,患者の不正咬合に適応した生体の変化が認められることがあります.その中には下顎骨の形態(下顎骨体部や下顎枝の長さ,顎関節形態の左右差)の変化が起こり,上下の正中線の不一致が認められる症例も多くあります.筆者は,こうした変化を受け入れて対応する矯正歯科治療が必要だと考えています.そしてこのような矯正歯科治療は,上下の正中線が一致しないゴールを目指すのが自然と考えます.むろん上下の正中線が一致するに越したことはありませんが,それにこだわるために他の問題が生じたり,無理な治療が必要になる場合があります.4mm程度の正中のずれは一般の人には認知されにくいという報告1を見ても,上下正中線の一致にこだわりすぎないことが大切です.▪ では,どこをゴールにすればいいか筆者は,初診時に上下の正中線が一致していない場合,表1のような項目を診るようにしています.これらの項目で異常が確認されたら,矯正歯科治療開始前に治療を行っても正中が一致しない可能性が高いことを説明し,患者の了承を得ます.顎関節症状や不定愁訴がある場合は,スタビリゼーションスプリントを用いた治療を矯正歯科治療前に行います.症状の改善があり,下顎位が安定したら矯正歯科治療を行います(図1).治療(表2)では,上顎の正中を脳頭蓋の正中に合わせ,下顎の正中は多少ずれていても犬歯誘導をできるだけ与える,もしくは犬歯相当部にある歯を擬似犬歯とし側方誘導を与えるセカンドチョイスを目指します.それも難しい場合は,口唇閉鎖時の緊張や緩みがなければ,上顎前歯の歯軸を頭蓋顔面に垂直に仕上げることとなります.生体の変化に対応した歯列づくりが,長期安定をもたらす上下の正中線は,必ずしも一致しなくてよい◦パノラマエックス線所見で,下顎頭の左右の大きさの違いがないか◦下顎頭の近心部の吸収がないか(ある場合,開咬など前歯部が機能していない症例が多い)◦下顎体部の長さや下顎角部の形態に左右差がないか◦下顎枝部の左右の長さは異なってないか◦左右の眼の高さは異なっていないかなど表1|初診時,上下の正中線が一致していない場合に診るべき項目

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