やればできる!やらねばならぬ!歯科領域の院内感染予防対策
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96切削器具とエックス線撮影機器への感染予防対策Suggestion142014年5月,ある全国紙において「歯削る機器7割使い回し,滅菌せず院内感染懸念」と大々的に報じられた.本記事の内容は国立感染症研究所研究班の調査で「患者ごとに必ず滅菌した機器に交換」との回答は34%であった.さかのぼって2012年4月,厚生労働省の歯科保健医療情報収集事業の一貫として実施された日本歯科医学会による同様の調査では,31.4%であった.今回の報道による世論の反響は大きく,報道後に多数の歯科医院で新しい切削器具や滅菌器の購入があったとみられる.われわれは,キンバリー事件*を忘れてはならない1.他科と比較した歯科医療の特殊性は,歯牙という硬組織を切削する頻度と観血処置の頻度が高いことである.歯牙を切削する際に使用されるタービンハンドピース(以下:THP)やマイクロモーターハンドピース(以下:MMHP)などの切削器具は,患者ごとに滅菌を行ったうえで使用されなければならない.しかし切削器具に高圧蒸気滅菌を行うと,多々トラブルが発生するため実施をためらう,という話も聞く.適切な方法で滅菌を実施すれば,そのようなことはないはずである.それでもトラブルが生じるのであれば,それは高圧蒸気滅菌による問題ではなく,切削器具自体の品質に問題がある2〜6.患者ごとに切削器具を滅菌しているか切削器具の滅菌歯科で使用されるTHPとMMHPは各々構造が異なる.いずれも各種樹脂やシリコーンゴム系のパーツや中空管,ボールベアリングなどの精密機械が多く含まれ,医科で使用される内視鏡と同様に,高価で滅菌の困難な医療器具である.巷では,内視鏡検査を受診する場合には朝一番に実施してもらうのが良いと噂されているのも根拠がないわけではない.朝一番の使用時には前日の診療終了後,器具に十分な滅菌が実施されていると考えられるからである.果たして歯科ではいかがであろうか.使用した切削器具に患者ごとの滅菌の実施が不十分であるとしたら,同様の状況が想像されるのではないだろうか.切削器具は血液や唾液で満たされている口腔内で使用される.外科処置で使用した器具を水洗とアルコール清拭だけですませている医療機関はないように,切削器具も外部のみの清拭やフラッシングだけでは不十分である.たとえばTHPは回転を止めると,惰性で内部のローターが回転して陰圧を生じ,口腔内の血液や唾液,歯牙切削粉などを器具内に吸引してしまう.たとえ逆流防止弁が付与されていてもその機能はTHP部分よりも近心のカップリング部分に位置するため,THP本体の汚染は避けられない7,8.つまり,切削器具は使用するたびに,いずれの歯科用ユニットのTHPでも吸引が生じる.その吸引回数は1回の治療時に多数回に及び,汚染の度合いは少なくない.MMHPは電気系統でギアを回転させるため,電気系統の供給が遮断されれば,即座にギアなどは回転を停止し,構造的には吸引は生じない.しかし停止時のMMHP先端からの水垂れを防ぐために,歯科用ユニット内の電磁弁に吸引機能をもたせていることが多い.その機能が前述の口腔内の血液や唾液を吸い込む.したがって,THPとMMHPはともに加熱滅菌を使用ごとに施す必要がある.歯科治療は医療行為であり歯科医療と位置づけるのであれば,ひとたび口腔内で使用すれば吸引の有無にかかわらず滅菌は当然である.切削器具の滅菌をおろそかにすることは,医療人としての信頼を失墜させる行為である.先の新聞記事にも取り上げられ,世間の関心は高まっている.もはや猶予はない.

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