やればできる!やらねばならぬ!歯科領域の院内感染予防対策
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86印象物,石膏模型,補綴物の消毒・滅菌Suggestion13日本補綴歯科学会より発行されている感染対策指針によれば補綴歯科治療の特殊性と感染対策の立ち遅れの要因として下記の事項が記されている1.①従来の補綴歯科治療の多くは非観血処置であり,また,これに技工物などに起因した感染の問題が遡上に挙がったことがないため,消毒,感染予防の必要性の認識が希薄である.②補綴歯科治療はオーダーメイド治療であり,被消毒体の大量滅菌・消毒,使い捨てができない.したがって,診療報酬を考慮すると消毒に要する経費がかかりすぎる.③被消毒体の材料は,寒天,石膏,シリコーン,レジン,金属,セラミックなど多岐にわたり,1つの消毒・滅菌方法では対応できないこと.また,とくに,もっとも使用頻度の高い石膏やアルジネート印象材の消毒が困難であること.④被消毒体には高い精度を必要とされるため,消毒操作による変形などが危惧されること.これらの要因により補綴治療現場における適切な感染対策が長い間採用されてこなかった.しかし,通常患歯に注射器による浸潤麻酔を実施し,歯冠形成後,印象材にて印象を実施する場合,口腔内は注射針の刺入点からも2,3歯冠形成後の辺縁歯肉からも出血が生じている.したがって,印象物に血液の混じった唾液が大量に付着し(図13-1),その印象物を水洗のみで石膏を注げば石膏模型は患者の唾液や血液で汚染される.歯科技工士らの肝炎罹患率から推定してもこの問題は避けられない4.印象時に使用する主たる器具や材料として寒天アルジネート連合印象では印象用トレー,寒天印象用シリンジ,印象材である.前述のとおり印象用トレーは金属製であれば高圧蒸気滅菌,樹脂製であればガス滅菌か化学的滅菌にて処理する.印象材を注入するシリンジにおいても,金属製であれば高圧蒸気滅菌,樹脂製のシリンジであれば先端がディスポーザブル製のシリンジを有するシステムを採用する.シリコーン印象の場合はすでに先端はディスポーザブル化されていて安全だが,汚染された手指で触れる樹脂製のガン本体は,袋状ラッピングにて対応する必要がある.印象物の水洗についてはアルジネート印象材では2分間,シリコーン印象材では30秒間水洗する5.印象物の消毒についてはシリコーン印象材については高水準消毒剤による薬液消毒を実施する.筆者は2%グルタラールアルデヒド剤に30分間の浸漬を採用している.同学会指針によれば,中水準消毒薬である0.1〜1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液への15〜30分間浸漬も推奨している.もっとも使用される頻度の高いアルジネート印象材と寒天との連合印象材を,グルタラールアルデヒド系溶液に浸漬処理する方法も推奨しているが,印象物の表面が粗造化するため筆者は採用していない6,7.また次亜塩素酸ナトリウム溶液は安価ではあるが浸漬時間が長く,劣化の度合いが早いため薬液交換の頻度や寒天印象材の表面性状に及ぼす影響など,問題が多い8,9.アルジネート印象材やアルジネート印象材と寒天との連合印象材への消毒については,筆者は主に感染対策の立ち遅れの要因図13-1 血液の付着した印象トレーを診療室内のシンクで水洗後に運搬トレーに入れる.図13-2 印象物への消毒システム.12

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