咬合挙上をうまくなりたい
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42欠損を放置した結果,対合歯・歯列が挺出して,咬合平面が乱れることはまれではない.また,残存歯列が広範囲に咬耗した結果,咬合高径が低下し,顔貌にまで影響することも時にみられる.歯質・歯列が欠損する原因には,う蝕・歯周病があげられるが,咬耗により二次的に咬合高径が低下する場合(う蝕・歯周病・治療により後天的に低位咬合となった場合)は,ブラキシズムに起因することが多い.*参考:「一次的」に咬合高径が低下する場合とは,歯の萌出不全などで先天的に低位咬合,および低位咬合のクラウンなどの場合臨床では,対合歯間にスペースがない場合,Kenne-dy I級(両側遊離端欠損)で上下顎の前歯が噛みこんで,いわゆるフレアアウトしている場合などに,臼歯部の義歯の咬合を挙上して,前歯部をリリーフ(開放)してやろうという試みが行なわれることがある.短期間的には一応奏功したようにみえるが,「義歯で咬合挙上」というのは長期的には成功しないものである.もし行うのであれば,残存歯すべてに及ぶスプリント状の義歯をまず設計しなければならない.最終的には残存歯部も挙上するのだが,この場合にしばしば行われるアンレーレスト(支台歯の咬合面を広く覆うようなアンレー型の咬合面レストが用いられることがあり,アンレーレストともよばれる.支台歯が傾斜している場合や,低位にある場合に咬合接触を与え,咬合面を回復しようとするときに用いられる.*藍稔・五十嵐順正ら.スタンダード部分床義歯補綴学.学建書院,2010より引用)や連続切縁レスト(五十嵐順正.パーシャルデンチャー成功のための設計3原則 動かない 汚さない 壊れない.東京:クインテッセンス出版,2015.症例58 術前の下顎義歯Fig 5を参照)のような単純な可撤性装置では,ほとんどうまくいかない.審美的にも装着感からも患者からは受け入れがたいもののようである.つまり,咬合挙上する場合には,的確な診断のうえ,全顎的修復・補綴になることを覚悟・承知しておかないと,後で収拾がつかないことになる.CHAPTER 4 咬合高径の挙上──検査と治療のフロー咬合高径の挙上は全顎的に4-1CHAPTER 4咬合高径の挙上──検査と治療のフロー 咬合挙上の診断としては,まず患者の顔貌の精査が挙げられる.顔貌を正面・側面からみて患者の意見もきく.これらにより,明らかに咬合高径の減少が疑われた場合には咬合挙上量を決定する.この場合も,顔貌による判断,Eラインによる評価(後述)などを,患者に手鏡を見せながら行なうのが実際的である. 常識的には咬合挙上量は,下顎安静位から咬頭嵌合位へ至る2〜3 mmの範囲といわれているが,研究によれば下顎安静位そのものにも大きな幅がある.そこで,生体の適応性を利用して,生理学的根拠に基づく方法にて挙上量を決めることが成功の秘訣であると思われる.

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