歯内療法の迷信と真実
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88Chapter5 根管充填に関する迷信❶側枝まで充填できる垂直加圧根管充填のほうが予後はよい迷根管充填法の違いによる予後の差を見出すことはできない真感染さえなければ、綿栓充填や粉材充填でも構わないのか? 日本の歯科医療界の歴史のなかで、綿栓根充や粉材根充が一般的に行われていた時代がある。国民皆保険制度が稼働し始めたころのことだ。当時は、歯科医師および歯科医院の数が非常に少なかったため多くの患者が歯科医院に集中し、治療しきれない状態であった。根管治療に割く時間はほとんど取れなかったため、簡便かつ短時間で可能な治療が好まれたのである。現在のように、ガッタパーチャーとシーラーで根管充填することは珍しかったが、やがて欧米の治療技術が日本に導入されはじめると、その割合は急激に逆転したのであった。 こういった歴史を振り返ると、「感染さえなく治療が終了すれば、問題はないのでは」という意見を聞くことがある。確かにそのように思えるが、実際はそうではない。歯冠側からの漏洩、すなわちコロナルリーケージを防ぐことができないからである。ガッタパーチャーとシーラーで根管充填しても、いずれは漏洩するものである。ましてや綿栓や粉材だけでは、まったくその防止には効果がない。 その他、綿栓に含まれる成分には問題がある。Sedgley et al(1993)1は、治療中に使用したペーパーポイントのセルロースは吸収されにくいと報告している。つまり、感染さえなければ根管充填法はなんでもよい、というわけではないのである。側枝まで根管洗浄と緊密な根管充填は可能なのか? 「側枝にまで根管洗浄し、根管充填すべきである」と考える歯科医師もいるが、実際に意図的に可能なのであろうか? 根管充填後のエックス線写真として、側枝らしきところに造影性のあるシーラーが充填されている画像を見ることはあるが、これはあくまでも結果論である。たまたま充填材が側枝らしきところに充填されただけであり、本当に十分な洗浄ができて充填しているわけではない。Riccuci et al(2010)2は、・側枝には歯髄様組織の残骸が多く残っており、根管洗浄は十分できてはいない。・充填されているように見えているが、実は造影性のあるシーラーが部分的に充填されているだけであり、同部には歯髄の残骸が存在していると述べている(症例5-1-1)。垂直と側方、どちらが予後はよいのか? 現在の臨床家であれば、根管充填法として垂直加圧根管充填法と側方加圧根管充填法のどちらかを採用していることと思われる*1。 垂直加圧根管充填(図5-1-1)にもいくつかの種類があり、どれも同じではない。多くの術式では、コアマテリアルを加熱または加圧変形させ、緊密に充填を行う。これ以外にも、溶媒で軟化させる方法や、注入式の充填方法、心棒にコア材を装着しているタイプなどもある。また小さなペレットを火炎や溶媒にて軟化させ積層充填する方法もある。これらの多くは、メインポイントの試適を行わず、どこまで充填材が詰まるのかわからない。よって、メインポイントの試適を行うことのできない方法を選択する場合は、オーバーフィリングを起こす可能性が非常に高いことに留意しなければならない。 一方、側方加圧根管充填法は多くの大学で教えられており、研究のゴールドスタンダードである。メインエビデンスで検討すると…

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