インプラントのための軟組織マネジメントを極める
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教育講演微小循環のモルフォロジー─軟組織移植の生着過程を探る─信藤孝博 Takahiro Nobuto (大阪府開業)1982年 大阪歯科大学卒業1992年 医療法人のぶとう歯科医院開業2014年 ハノイ なごみデンタルクリニック開業日本歯周病学会指導医 日本臨床歯周病学会指導医JIADSペリオコース講師はじめに 近年、GBR後のインプラント周囲に前庭を形成するとともに角化粘膜幅を確保する目的で、遊離歯肉自家移植術が行われることが多くなってきた。しかしながら、過去においては天然歯周囲でさえも角化歯肉の必要性が軽んじられ、歯槽粘膜への徹底したブラッシングを強いる時代も存在した1、2)。 通常、生体の中に不必要な組織構造がないと考えるならば、角化歯肉の存在は不可欠なものとなる。インプラント周囲ですら、角化粘膜を備えることがインプラントの長期安定性に寄与することが多くの研究で明らかになってきた3、4)。さらに、審美領域においては、遊離結合組織移植により自然観を持って天然歯と調和するほどの技術革新が遂げられている。 今回、軟組織移植の生着過程を探る目的で、著者が1988年に公表した論文5、6)をもとに、遊離歯肉自家移植後の生着過程を臨床所見とともに比較検討を行った。さらに、2005年に公表した論文7、8)から生着過程における血管動態の一致性について確認し、あらためて微小循環のモルフォロジーについて再検証を行った。研究の時代背景 筆者が遊離歯肉自家移植後の血行再開に関する研究を始めた1984年当時の時代背景を考えると、Nabers9)、そしてSullivanら10)が角化歯肉を獲得し、口腔前庭を深くする方法として遊離歯肉自家移植を報告していた。その後、根面をカバーする方法として、Miller11)により報告された根面処理を施してFGGを行う方法、さらに1985年にLangerら12)による遊離結合組織移植という新しい手法に進化していった。当時、移植片生着にもっとも重要である血行再開過程に関してはさまざまな説があり、(1)移植片と受容床が吻合するという既存血管吻合説13~15)(2)受容床から発した新生血管が移植片に侵入するという新生血管説16~18)(3)これらの両者が起こるという説19~21)があり、論議が多く混沌としていた。実際、その当時の有名な教本であるGoldmanら22)の移植片生着に関する血行再開過程も、どのような様式で血行が再開するかはっきりと明記されていなかった。 この血行再開過程の動態を明確にする目的で、低粘度アクリル樹脂を血管に注入し、軟組織を除去した血管鋳型標本を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した23、24)。図1 角化歯肉内に6mm正方の受容床を作製、反対側から同じ大きさの歯肉を採取し、移植する。(文献5より引用・改変)図2 銀合金で作製したパック保持装置で、移植部を完全に保護する。6mm6mm6mm56

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