咬合のサイエンスとアート
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409Ⅱ級の咬合関係図11-4a〜d Ⅱ級1類の短縮歯列における小臼歯の咬合状態.a,b:上顎に正常な歯冠の豊隆が付与された水平被蓋の場合,最大咬頭嵌合位では小臼歯がすべての咬合を負担することになる.そして前方あるいは側方への偏心運動時には2〜3mmほど離開する.c,d:咬合挙上し,口蓋側面を舌側方向に膨らませ,上顎の歯列が下顎と咬合接触するように咬合を付与.また,前方と側方への偏心運動時,わずかな誘導を付与.図11-5a〜d Ⅱ級1類における不十分な咬合接触関係.インプラントによる歯冠修復で臼歯部咬合支持を獲得.偏心運動時の誘導は小臼歯と第一大臼歯に支持される(Dr. E Zenziperのご厚意による画像).図11-6a,b Ⅱ級1類における咬合挙上は,対合歯との離開関係を増大させ,下顎前歯は上顎前歯と犬歯に対してさらに後方位となる状況を惹起する(オートローテーション).a:閉口時,最大咬頭嵌合時.b:開口時,下顎最後方位.abcdaabbcdる(図11-3). 図11-4a〜11-4eに,Ⅱ級1類で臼歯が欠損している症例を示す.歯冠形態は正常で,水平的,垂直被蓋が中等度から重度の場合は,咬頭嵌合接触と側方運動時の小臼歯による誘導となる. 上顎前歯と犬歯の垂直的な咬合挙上と水平的な歯列拡大によって,咬頭嵌合位と偏心咬合時に,前歯,犬歯,小臼歯が同時に接触する状態へと改善が可能である(図11-4c,11-4d). 図11-5は,重度のⅡ級1類で臼歯欠損の症例を示している.すべての臼歯部の咬合力を第二小臼歯の遠心で負担していることがわかる.また,偏心運動時の誘導もこの部位が負担することになる.この症例では,サイナスリフトを含めたインプラントによる新たな臼歯部咬合支持が必要である.Ⅱ級症例における咬合挙上 Ⅱ級症例における咬合挙上は,前歯の離開と,下顎前歯が上顎前歯と犬歯に対してさらに後方位となる状況(オートローテーション)を惹起する(図11-6).最大咬頭嵌合時における前歯の接触および上顎前歯と犬歯の偏心運動時の接触を獲得するためには,上顎前歯と犬歯の歯冠形態には過剰な豊隆を与える(オーバーカントゥアにする)必要がある.これは,図11-4と図11-8に示されるような,オーバーカントゥアの上顎前歯および犬歯の全部冠修復が必要とされる.もし,咬合関係が遠心に寄りすぎていれば,最初の前方運動は,前歯が接触するまでは小臼歯によって誘導されることになる(図11-5). 図11-7,11-8に示される重度の水平かつ垂直的過蓋咬合の症例では,不整な咬合平面,慢性歯周炎,軽度の前歯の離開,下顎前歯の叢生,下唇の巻き込みと非審美的な容貌を呈している.上顎前歯と犬歯に対しては,歯周ポケットを浅くするための,フラップ手術と根管治療が行われた.上顎の歯列は咬合挙上の際に修復した.下顎の矯正治療によってわずかに咬合挙上されて口蓋側の豊隆が強くなることで,最大咬合嵌合時における前歯および臼歯の接触と上顎前歯部でのアンテリアガイダンスが可能となる.頬舌的分類 頬舌的な歯列不整は,交叉咬合または反対咬合に分類される19.反対咬合とは,「下顎の歯が上顎の歯に対して外側にある咬合状態をいう.すなわち,上顎の頬側咬頭は下顎の歯の中心窩に噛みこむ状態にある」19.両側性の交叉咬合は,顎関節症のリスクに挙げられている.このような症例では,頬側に傾斜した下顎の舌側咬頭と,舌側に傾斜した上顎の口蓋側咬頭による側方の偏心運動時の誘導が見られる.側方運動時の誘導を獲得するためには,傾斜歯の補正と作業側の誘導の維持,歯槽骨の支持,個々の補綴装置の耐久性がポイントとなる(図11-9).発音要因 前歯部の偏心運動時の誘導を改善するために口蓋側の豊隆を強くすると会話がしづらくなる可能性がある.場合によっては,患者は術前の発音空間を再構築できないかもしれない.舌っ足らずな状態

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