抜歯しない埋状歯の矯正歯科治療
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56抜歯症例において,空隙は閉鎖しなければならない.プリアジャストエッジワイズ装置は,スライディングメカニクスを用いて空隙閉鎖を行う(図38,表10)47.これは,プリアジャストエッジワイズ装置の利点を最大限に活かした方法である.スライディングメカニクスは,1989年にMcLaughlinらにより報告されたアーチワイヤーを滑走させて,空隙閉鎖を行う方法である47.しかし,スライディングメカニクスは米国において,その普及に時間を要した.それは,ローアングル症例においてスライディングメカニクスを用いると,被蓋が深くなり過ぎる欠点があるためである47,48.加えて,前歯と臼歯の抜歯側への傾斜,およびローテーションが発生することもある.これらの現象が発生しないよう,スライディングメカニクスは調整されなければならない27,41,47-49.プリアジャストエッジワイズ装置は,装置内で角型アーチワイヤーを滑走させることが可能である.スライディングメカニクスには,ワイヤーとスロットサイズの種類により,さまざまな装置の組み合わせがある27,28,35,41,49.これらの中から,症例に適した組み合わせを選択しなければならない.スロットとワイヤーのサイズ0.018インチのスロットの装置の場合,0.016×0.022インチのTi-Niワイヤー,あるいはステンレスワイヤー,0.022インチのスロットを用いた装置の場合,0.019×0.025インチのステンレスワイヤーこれは,角型アーチワイヤーにファースト,セカンド,サードオーダーベンドを付与しない,なめらかな弯曲のプレーンアーチを用いるためである.スライディングメカニクスは,この滑走を利用し空隙閉鎖を行う.具体的には,アーチワイヤーの前歯部にフックを装着して,大臼歯のブラケットからこのフックにエラスティックやスプリングを掛けることである27,41,47-49.プリアジャストエッジワイズ装置が開発された当初,スライディングメカニクスで空隙閉鎖が行えるかが疑われた.しかし,臨床において,空隙閉鎖が行えることが明らか28,35になり,スライディングメカニクスは技術革新となった.スライディングメカニクスは活性化が容易であり,チェアタイムが短縮される.ただし,従来の力の大きさで空隙閉鎖を行うと,歯の傾斜移動が生じやすい.これは牽引力の大きさが,従来の方法より弱い力で十分であるためである.が第一選択である.これは,ワイヤーとスロットには少なくとも200μmの遊びが必要なため27,41である.たとえばワイヤーサイズを太くした場合,剛性は高くなり,咬合が深くなるというリアクションは抑えられる.しかし,ブラケットとワイヤーの遊びの効果がなくなり,滑走が困難となる.また,ブラケットポジションに錯誤がある場合,スライディングメカニクスは作動しない.この点に関して,McLaughlinら28,35,47,48は0.022スライディングメカニクス4スライディングメカニクスを用いた空隙閉鎖スライディングメカニクスの術式

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