Digital Dentistry YEARBOOK 2016
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はじめに─インプラント治療の現状と課題 近年、インプラント治療への患者のニーズは多様化しており、機能的・審美的な観点だけでなく「痛くなく、腫れずに、早くに噛める」快適で安心なインプラント治療を求める声が高まってきている。 2011年の国民生活センターの報告によると、患者側からの歯科インプラント治療に係る問題の中で、手術に関連した「痛み・腫れ・化膿・麻痺・出血等」の身体的に危害を受けたという相談が上位を占めていた。また2012年の日本顎顔面インプラント学会の報告によると、歯科医師側からのインプラント手術関連の重篤な医療トラブルとしては、「下歯槽神経損傷・上顎洞内インプラント迷入・上顎洞炎等」が上位を占めていた。 今日のデジタル技術の発展には目を見張るものがあり、歯科医療界にもその波が押し寄せてきている。そしてこれらは、デジタルデンティストリーによるインプラント治療として推進されてきている。患者側から求められている快適で安心な治療と、歯科医師側としてトラブルを回避した安全なインプラント治療を推進するためには、CT撮影による診査・診断、三次元解析ソフトによる埋入シミュレーションと治療計画立案、コンピュータ支援低侵襲手術、CAD/CAMによる補綴治療までの一連の流れの構築が重要と考えられる(図1)。アナログからデジタルへの変遷 1990年代から現代までのインプラント治療の診査・診断と治療技術における、アナログからデジタルへの変遷を表1にまとめた。1990年ごろまでは、パノラマエックス線写真を用いた二次元での診査・診断が主流であり、オッセオインテグレーションの確立を主眼にした外科主導のインプラント治療が行われていた。 1990年代前半になると、大学病院を中心に医科用CT機器による三次元での診査・診断が行われるようになった。その結果インプラント手術の適応症が拡大し、骨造成術・上顎洞底挙上術・腸骨海綿骨骨髄移植術・下歯槽神経移動術などが行われるようになった。また、インプラント用のCT解析ソフトDenta Scanが開発され、顎骨の横断面画像が診査・診断されるようになり、二次元の画像を三次元的に多平面再構成することが可能となった。 1990年代後半になると、PCの普及によりインプラント・シミュレーションソフトSIM/Plant(Columbia Scientic社〔当時〕)が開発され、1996年に本邦で初めて導入販売された。筆者はSIM/Plant(ver.3)の第1号を大学に導入するとともに、シムプラント研究会を立ち上げて全国の大学病院・関連病院と連携して、CT撮影施設の開拓とCT撮影による診査・診断の重要性を啓発した1‐4。当時はSIM/Plant画像上にシミュレーションされたインプラント埋入位置を実際の手術に再現する方法が検討されており、筆者はコノメーター図1 デジタルデンティストリーによるインプラント治療の流れ。①CT撮影による診査・診断②埋入シミュレーションと治療計画立案④CAD/CAMによる補綴治療③コンピュータ支援低侵襲手術Digital Dentistry17

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