抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実
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144臨床論文を読むために必要な用語と考え方全世界から、ある施設の同じ病気の人を選んで対象となる集団を決める同じ病気の人のみ選ぶ違う背景の人をはぶくどちらの治療を行うか第3機関に問い合わせる治療の違いで群に振り分け、治療して経過を観察し予後を評価して比較する治癒不変悪化転居・中止して除外/経過不明有害な事象で中止/経過観察した他の疾患等が生じて除外治癒不変悪化従来の薬色・形は同じだけど新しい薬図7-1 臨床研究を理解するための基本的な流れ(除外症例の範囲でいろいろな比較方法がある)。 ある対象となる患者さんの集団を2つ以上の治療に分けて、別々の治療を行って経過を観察して結果(アウトカム)を比較するというタイプの研究である。しかし現在では、従来の治療や診断に対して、あらためて比較することがないほど、誰がみても効果がある新薬などの開発は困難である。たとえば、従来の治療では10人中9人が死亡していたのに、新治療では全員が生存するような画期的なことは不可能に近く、実際は死亡を7人に抑えられるような、効果の差が小さな研究となる場合が多い。よって、9人と7人の違いの場合、たまたま従来の治療の人たちに高齢者が多かったなどのバイアス(偏り)があるだけで結果が異なってくる。 そのため、臨床研究では、結果に影響を及ぼすことがないように厳密な計画・管理のもと〔例:対象の人数を決める、2つの治療群の患者の背景を同じにするためにランダム化割付け(149頁参照)を行うなどのルール〕で研究が行われる(図7-1)。そのため本項で扱うような、研究を行うための専門的な用語が存在する。よって、たまたまその症例が成功したのでケースプレゼンテーションを行ったということではなく、失敗症例も含めて評価している点に注目してほしい。○臨床研究→ 症例報告と違い、従来の治療や診断に対して、新しい治療や診断などの介入を行った場合、それがよりすぐれているかどうかを調べるタイプの研究のこと。 すなわち、個々の臨床医の経験をまとめた質的研究や生理学的実験もエビデンスの一情報源である。これらの研究や実験・報告から得られた効果の推定値がエビデンスとなる。 注意が必要なのは、これまでエビデンスというと、ある特定の有名な論文(さらには、その論文の中の自分に都合のよい結果のみ)を振りかざして、「エビデンスによると…」と説明することが多い点である。そうではなく、そのトピックスに関して、自分に都合のよい論文から都合の悪い論文まで網羅的に検索をして、すべての情報をまとめたものをエビデンスと称する。もちろん、すぐに全部の情報が集まる訳ではない。実際の臨床では、少しずつ、サイクルのようにエビデンスを蓄積していかないといけないかもしれない。また、生理学的実験の場合は、いわゆる臨床研究と比較して、結果を直接臨床に適用できないものもあり、さらに、個々の臨床医の経験などの情報の場合は、医療者の偏見が含まれていたりする可能性があるので、そのエビデンスの確信性の程度も同時に評価をして、エビデンスで得られた効果の推定値と一緒に参考にする必要がある。○エビデンス→ 可能な範囲で情報と経験を蓄積したもので、「body of evidence」という。参考文献とする研究論文のみを示す用語ではない。

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