抜歯・小手術・顎関節症・粘膜疾患の迷信と真実
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14Chapter1 抜歯に関する迷信❶垂直な親知らずは抜歯しやすい迷基本的には抜歯しやすいが、ときどき「はまる333」ことがある真●簡単に思えても難しい抜歯がある 一般の歯科医院で、下顎埋伏第三大臼歯(以下、智歯と記載)の抜歯を行うも抜けずに口腔外科へ紹介されてくる症例は、一見簡単に抜歯できそうな、まっすぐに位置している症例も少なくない。なぜ、このように簡単に思えるのに抜歯できないものがあるのか。これらの抜歯ができなかった理由は、抜歯の技量不足でなく、診断不足といえる。水平埋伏歯でないため、口腔外科医に紹介しなくても抜けると思ってしまう。たしかに、簡単に抜歯できる歯が多いのが事実であるが、なかには口腔外科医でも困難な抜歯がある。●智歯抜歯の分類とは それでは、そのような抜歯が困難かどうかを見分ける基準はあるのか。多くの基準があるが、その中で、もっとも有名なのが、Pell-Gregoryの分類といわれる、深さや下顎枝までの距離で分類したものである。そのほかにも、Winterの分類という、傾きを示した分類もある。またそれらの分類を点数化したPederson scaleというスケールもある。日本の文献には、これらの分類を混乱して記載していることもあるので注意が必要である。 しかし、Garcíaら1は、Pell-Gregoryの分類の難易度の推定は精度が低いとしている。そのため、いろいろな難易度に関する論文が存在している。今回は、Yuasaら2の分類を紹介する(筆者の論文であり、高く評価している可能性があるので、読者は批判的に読んでほしい)。Yuasaらの論文後にも、Susarlaら3が前向きコホート研究を(事前に計画してから抜歯して調査した研究)、Akadiriら4がシステマティックレビュー(世界中の論文を集めた論文)を報告している。このように、体重などの局所の解剖学的な要因の研究なども報告されているが、現在もYuasaらの分類は役立つと考えている。●智歯抜歯の困難度の評価方法・口腔外科へ紹介するポイント 表1-1-1のように、まず「第二大臼歯咬合面に対する埋伏歯の深さが深く、奥行きのスペースが狭い場合」である。ここまでは、誰でも想像できると思う。また、歯根が屈曲していることも想定の範囲内である。しかし、歯根の形態が歯頸部より太い(樽状根、図1-1-1)は、以外と見逃してしまう要因である。すなわち、水平埋伏とか垂直であるという歯軸の方向が、困難度の要因ではないということである。●垂直な智歯の場合の困難度の評価 読者の多数は、これらの困難度の評価方法を読んで「当たり前」と思うであろう。ではどうして、評価を誤ってしまうのか。垂直なのに抜歯できない場合は、歯冠が普通の位置に見えるため、実際は、第二大臼歯遠心部と下顎枝前縁との間のスペースが狭いにもかかわらず、それに気がつかずに、歯冠の大きさのスペースがあると誤解しやすい。また、垂直な智歯は、一見歯根が屈曲してないようにみえるが、実は、屈曲している場合も多い。●垂直な智歯の場合のポイント エックス線写真上で、屈曲がないにもかかわらず抜歯できない場合は、やはりエックス線写真上でわからない方向への根の屈曲を一番に疑うことである(癒着は、ほとんどない)。よって、2根に分離している場合は、真ん中で分割することが必須である。また、それよりも大切なことは、術前に、どんなに簡単に思えても「抜歯せずに中断して、後日に抜歯をするなど、分けることがある」ということを説明しておくことである(詳細は32頁参照)。図1-1-1 樽状根。表1-1-1 Yuasaらの智歯抜歯の難易度分類(文献2より引用改変)エビデンスで検討すると… 回転パノラマエックス線写真にて、以下のどれかがあてはまる場合に困難と判断。・第二大臼歯咬合面に対する埋伏歯の深さ:第二大臼歯咬合面より下・第二大臼歯遠心部と下顎枝前縁との間のスペース:第三大臼歯の歯冠幅経より狭い・歯根の形態:歯頸部より太い(樽状根)、歯根が屈曲(注意:根の頬舌側への屈曲は判断できない)

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